約 1,746,360 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9453.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十七話「カルカソンヌの夜」 波動生命体プライマルメザード 登場 ガタノゾーア率いる超古代怪獣軍団の撃退後、教皇ヴィットーリオは怪獣を操る黒幕たる ガリアに対して“聖戦”を宣言。するとロマリアはまるで初めから準備が成されていたかの ように――実際そのようになる手筈だった訳だが――瞬く間に部隊を編成し、たったの二週間 ほどでガリアの奥深く、首都リュティス目前にまで侵攻した。 ここまでの速い進軍は、ガリア軍の分裂も理由にあった。元々気分屋で意味不明な勅命を 出しまくっていたため国内でも『無能王』と蔑称されて支持の低かったジョゼフであるが、 人類の敵である怪獣を操っているとして教皇から“聖敵”と認定されたことで、いよいよ 多くの人心が彼から離れた。特に理不尽な理由で不遇をかこち、王政府に不満と恨みを抱えて いた多くの諸侯たちはロマリアに寝返り、結果ロマリア軍はほぼ無血でリュティスから西に 四百リーグ離れただけの城塞都市カルカソンヌまで踏み込んだ。 しかしそこで進軍はストップした。カルカソンヌの北を流れるリネン川に向こうには、 それでも王政府に忠誠を誓うガリア王軍が防衛陣形を敷いているからだ。その勢力はおよそ 九万。対するロマリアの兵力は反乱軍を合わせてもせいぜい六万。国の半分が反旗を翻しても ロマリア側を三万も上回るとは、さすがはハルケギニア一の大国である。聖戦の錦旗を掲げて いるロマリアも1.5倍もある兵力差を前にしては、容易に攻め込むことは出来なかった。 一方でガリア王軍の戦意も低かった。聖戦を発動した相手を敵に回すことの愚かしさも 加え、やはりジョゼフの求心力のなさが彼らにも少なからず影響していた。 そのような事情が重なった結果、両軍は川を挟んでの硬直状態を既に三日も続けていた。 リネン川では今日も、ロマリア軍の兵士とガリア軍の兵士が川を挟みながら罵詈雑言を 飛ばし合う。 「ガリアのカエル食い! お前の国は、ほんとにまずいものばっかりだな! パンなんか 粘土みたいな味がしたぜ! おまけにワインのまずさと来たら! 酢でも飲んでる気分だな!」 「ボウズの口にはもったいねぇ! 待ってろ! 今から鉛の玉と、炎の玉を食わせてやるからな!」 「おいおい! 怖気づいて川一つ渡れねぇ野郎がよく言うぜ!」 「お前たちこそ、泳げる奴がいねぇんだろ! いいからとっとと水練を習ってこっちに来やがれ! 皆殺しにしてやる!」 罵り合いはエスカレートしていき、やがて興奮した貴族の一人二人が川を渡り、中州で 一騎討ちを行う。勝利者はそこに居残り、己の軍旗を立てて、負けた陣営からは敵討ちの ように別の挑戦者が現れる、というように軍旗の掲げ合いが延々と繰り広げられていた。 そんな様子を、ミラーとともにいるルイズが呆れた目でぼんやりながめていた。 「全く、男ってのはよくあんな下らない諍いに熱心になれるものね。グレンだって、ミラー、 あなたが止めてなかったらいの一番に参加してたわよね」 とぼやくルイズに、ミラーが言う。 「グレンはあんな性格だからですが、他の人たちは、こうでもしないといたたまれなくて しょうがないからでしょう」 「いたたまれない?」 聞き返したルイズにうなずくミラー。 「教皇の命令とはいえ、私たちですらまだガリアが怪獣を使役している動かぬ証拠を得ては いません。だから今度の戦の大義について内心迷いがある。対するガリア側も、軍の半数が ロマリアについている状態です。それで本気で戦える気分になれるはずがありません」 「まぁ確かにね」 「ですがここまで来てしまった以上は、お互い何もしないままでいる訳にはいかない。だから こんな小競り合いでも戦の対面を保っていないことには、気持ちが落ち着かないのでしょう」 説明を聞いたルイズが肩をすくめる。 「ほんと、軍隊って面倒なものね。まぁこっちからしたら、このにらみ合いが続く方が都合が いい訳だけど」 ルイズはガリアの領土に攻め入る前に、アンリエッタにヴィットーリオたちが才人を謀殺 しようとしたことを伝えた時のことを思い返した。 アンリエッタも、人間同士の争いの防止と聞かされていながら、その実はガリアとの開戦が 目的だったことを思い知らされ、己の考えの甘さを悔いるとともにヴィットーリオへの反感を 強めていた。そこにルイズたちの報告を受けて、彼女は何かを決心したような顔になった。 そしてアンリエッタはルイズと才人に「わたくしにお任せ下さい。わたくしは全生命を 賭けて、この愚かしい“聖戦”を止めてみせましょう」と宣言し、その準備として一旦 トリステインに帰国していった。同時に自分が戻るまでに決定的な会戦が始まらないよう、 時間稼ぎをしてほしいと頼んだのであった。そのため、下らなくとも均衡状態が続いている ことはルイズにとっては願ったり叶ったりである。 しかしミラーは残念そうに首を振った。 「ですが、いつまでもこのままでいられる保証はありません」 「え?」 「ここは敵地です。そこに留まる時間が長引くのに比例してこちらが不利になるものです。 更にそんな状態に陥れば、反乱を起こしたガリアの諸侯も再度寝返る恐れがあります。 そうなれば、均衡は一気に崩れ去るでしょう」 ミラーの語った状況を想像して、渋い顔になるルイズ。 「また、ガリア王政府……はっきり言えば、ジョゼフ王がまたも怪獣を差し向けてくることも 十分ありえます。今はまだその兆候はありませんが……」 それが一番恐れていることであった。ジョゼフが何を考えているのかは知らないが、虎街道 以来怪獣を刺客に送ってくることは起きていない。しかしその気になればいつでも出来るはずだ。 怪獣ならばウルティメイトフォースゼロが相手になれるが、その戦いの余波でロマリア側に打撃が あったら、こんな均衡はすぐにでも崩れてしまうことだろう。そうなれば敗戦は必至だ。 「つまり、表面的には均衡が取れてるようでも、実際はこっちの旗色が大分悪いってことね。 ああ、姫さま、早く戻られないかしら。何をどうするつもりなのかは知らないけど……」 祈るようにつぶやいたルイズは、はたとミラーに尋ねかける。 「ところで、サイトはどこに行ったか知ってる? 今日は朝から姿が見えないんだけど……」 「サイトならあっちの方で、ゼロと一緒にいますよ」 ゼロと? ルイズはミラーの言動を訝しんだ。才人とゼロは再度融合したので、一緒にいる なんてことはいちいち言わなくてもいいことのはずだ。 ともかくミラーが指し示した方向へ向かってみると、そこで才人が誰かに剣の稽古をつけて もらっていた。 「もっと自分の感覚を研ぎ澄ませ! 一瞬たりとも集中を切らすな! もう一度行くぜ!?」 「ああ! 頼む!」 その相手とはランであった。ルイズは驚いて二人の稽古に割って入る。 「サイト! どうしてまたゼロと分離してるの?」 ランの正体はもちろんゼロである。つまり才人は、再びゼロと一体化したというのにまた 分かれているということだ。どうしてそんなことをしているのか。 ルイズに振り返った才人とゼロが順番に答えた。 「ちょっとな、ジョゼフの奴をぶっ倒す時のために備えて、少しでも鍛えてもらってたんだ。 こうして剣の相手をしてもらう方が一番効率いいからな」 「ジョゼフの正体が宇宙人の変身とかだったらともかく、人間だったら才人の純粋な実力で 戦わなきゃならねぇ。その時に確実に勝てるようにってな」 ルイズはそんな二人に呆れ果てる。 「姫さまが武力による戦い以外で決着をつけようとなさってるじゃない。あんたたちは姫さまの ことを信じてないの?」 「そうじゃないけど、ジョゼフだけはどうしても俺の手で直接引導を渡してやりたいんだ。 あいつがタバサにしたことは、ほんとに思い返すだけで腹が煮えくり返るからな!」 憤りながらの才人の発言。ルイズは無駄に熱意を燃やす才人に肩をすくめるとともに、 ある意味でタバサに熱を上げる才人の様子が若干面白くなかった。 そんなところに、マリコルヌたちオンディーヌの仲間が駆けつけてきた。 「サイト! こんなところにいたのか!」 「あッ! その男はこないだの!」 マリコルヌたちはランの顔を認めると、険しい顔で彼に対して身構えた。彼らからしたら、 突然現れて才人の居場所を奪ったように見えるランは憎らしく感じるのだろう。その正体が ウルトラマンゼロだと知ったら、一体どんな反応を見せるのだろうか。 才人は苦笑しながらマリコルヌたちに取り成した。 「みんな、この人は俺の友達で、訓練をつけてくれた師匠でもあるんだ。だからそう嫌わないで やってくれよ」 その言葉は嘘ではない。才人はゼロの戦いぶりをすぐ側で見ていることで強くなった面もある。 才人の言葉でオンディーヌの態度も変わる。 「えッ、そうだったのか?」 「何だ。それならそうと俺たちにも紹介してくれよな! 全く水臭いぜ」 「すいません。にらんだりなんかして」 態度を軟化させて謝罪するマリコルヌたちに手を振るゼロ。 「いいんだ。それより才人に何か用があったんじゃないのか?」 「ああそうだった! サイト、ギーシュの奴を助けてやってくれないか」 マリコルヌが才人に振り返って頼み込んだ。 「ギーシュを?」 「あの目立ちたがり屋、酔った拍子に中州の決闘に加わろうとしてるんだ。だけど相手が こっちの貴族を三人も抜いてる奴でさ、ギーシュじゃあどう考えても荷が重いんだよ。 殺されるかも」 「あんの馬鹿」 才人は急いで駆け出し、川原へと躍り出て今まさに出航しようとしていたギーシュの小舟に 上がり込んだ。 それを見送ったルイズは大きなため息を吐いた。 「ギーシュの奴、相変わらず困ったものね。最近少しはマシになったかと思ったのに、やっぱり 問題起こすんだから」 「全くだな」 ゼロも苦笑いして肩をすくめた。 ガリアの騎士は相当な手練れであったが、才人とて数々の激戦に揉まれた猛者。無事に撃退し、 ギーシュを助けることに成功した。更にはガリア側の後続も次々返り討ちにし、オンディーヌは 才人が倒した騎士から身代金をせしめて大儲けした。才人は、そんなことをしに来たんじゃ ないんだけど、とぼやいていた。 しかし最後の相手となった、鉄仮面を被った男は、それまでの決闘が子供の遊びに思えるかの ように強い戦士であった。さすがの才人もてこずり、緊張の汗を流したが……男は才人と鍔迫り合いを しながら、こんなことを聞いてきた。 「シャルロット……いや、タバサさまを知っているか?」 男はタバサの家系であった、オルレアン公派の人物だったのだ。彼はわざと才人に負け、 釈放金に紛れさせたタバサ宛ての手紙を才人に送ったのだった。 その日の夜、才人はその手紙をタバサに渡しに行った。しかし“聖戦”が発動してからと いうもの、自分やタバサにはどこに行こうともロマリアの見張りがついていて、内容如何に よっては彼らの前で読む訳にはいかない。そこで才人はタバサとの逢引きのふりをして、 シルフィードに乗って空へと上がることにした。 その間、タバサが妙に黙っているので、才人は少々気を揉んだ。 「……ごめん。嫌だったか?」 「……平気」 タバサが黙っていたのは全く別の理由からだったが、幸か不幸か、才人にそれを察する 洞察力はなかった。 「……昼間、中州で俺たちガリア軍の貴族と一騎討ちをやってたんだよ」 「知ってる」 「最後の相手が、俺にこれを託した。タバサにこれを渡してくれって。お前の味方じゃないのか?」 才人が預かった手紙をタバサに差し出した。タバサが封筒を破り、中から出てきた便箋を 杖の灯りで読み始める。 「カステルモール」 「やっぱり、知ってる奴か? 聞いたことがあるな。そうだ! お前を助け出した時に、 ガリア国境で俺たちを逃がしてくれた奴だ!」 感慨深げにつぶやく才人。アーハンブラからの逃避行で、ガリアからゲルマニアへ逃れる際の 国境破りの際に、タバサを連れていると知りながら見逃してくれた男だったのだ。 「俺も読んでいいか?」 タバサの許可を得て、手紙の内容に目を走らせる才人。そこには、ジョゼフに対して決起を 起こしたが返り討ちに遭ったこと、どうにか逃げおおせてからは傭兵のふりをしてガリア軍に 潜り込んでいること、そしてタバサに“正統な王として即位を宣言されたし”と書いてあった。 そうすれば、ガリア王軍からの離反者を纏め上げてタバサの元に馳せ参じると……。 才人は厳めしい顔となってタバサに尋ねかける。 「難しいことになってきたな……。で、どうするんだ?」 「どうすればいいのか分からない」 才人は考え込む。ガリア王軍のほとんどが忠誠を誓うのは、王家の血筋。今となっては その血筋は、表向きはジョゼフの系列しか残っていないから、ジョゼフの下についているが、 そこにタバサが王権を主張して進み出れば、確かに王軍からも離反者が多く出ることだろう。 亡きオルレアン公は、ジョゼフとは反対に人望に厚かったからだ。 しかしそうすることは、タバサの危険が大きい。タバサが国のほとんどを奪い取れば、 ジョゼフもいよいよ黙ってはいまい。本気でタバサの命を狙ってくる恐れが強い。才人は そんなことは認めがたかった。 才人は考えた後に、タバサに告げた。 「今、姫さま……アンリエッタ女王陛下は国に帰っている。この“聖戦”を止めるために、 何か策を練っている最中なんだ。俺たちはそれまで自重しろと言われてる。一騎討ち騒ぎとか やっちゃったけど……。だから、タバサもとりあえずこの件は置いといてくれないか?」 「……分かった」 タバサは素直に才人の頼みを聞き入れた。 そして二人は、手紙の末尾の一行に、目を丸くした。 “ジョゼフは恐ろしい魔法を使う。寝室から、一瞬で中庭に移動してのけた。くれぐれも ご注意されたし” 「タバサ、こんな魔法を聞いたことがあるか?」 タバサは首を横に振った。彼女の豊富な知識でも、そんな魔法には覚えがなかった。 「となると……。未知の呪文。……まさか、虚無?」 「……その可能性は低くはない」 緊張した声音でタバサが答えた。ジョゼフは四系統の魔法の才能がないことが、『無能王』と 呼ばれるようになった最大の理由なのだ。 「この話はここに留めておこう。ロマリア軍がどこで聞いているか分からないからな。全く、 空の上ぐらいしか落ち着いて内緒話が出来ないなんて」 ため息を吐いた才人に、タバサが不意に寄り添ってきた。 「どうした? 寒いのか?」 タバサはこくりとうなずいた。 「そっか……。夜だし、空の上だもんな」 納得する才人だが、しかし風はシルフィードが上手くそらしてくれているから、才人が 寒いと感じていないならばタバサも同じはずなのだ。 だが才人は疑わず、マントを広げてタバサの身体も覆った。 「……じゃあ、そろそろ帰るか」 才人はそう言ったが、タバサは次のように告げた。 「もうちょっと」 「え?」 「……もうちょっとだけ、飛んでいたい」 才人には、どうしてタバサがそんなことを言うのか見当がつかなかった。しかしタバサが そう言うのならば、と従うことにする。 「そうか。それじゃあもう少しだけ……」 と言いかけたのだが……その時に、ガリア側の陣地の上空に何やら怪しげなものが漂って いることに気づいて言葉を途切れさせた。 「何だあれ?」 才人のひと言にタバサも我に返って顔を上げ、そして硬直した。目に映ったものが理解 できなかったからだ。 空に浮かぶ『それ』は、白く巨大なクラゲのようだった。しかし当たり前な話、クラゲは 空にはいない。そしてその輪郭はやたらとおぼろげであり、一体だけのようでありながら 複数いるように見える。どうにもはっきりとしないその光景は、幻覚も疑うところだ。 「空に……でかいクラゲ?」 呆気にとられる才人たちだったが、やがてそれにばかり気を取られていられない事態が 発生していることに気がつく羽目になった。 地上を見下ろすと、崖の裾野の平原を貫くリネン川をいくつもの点が横断していた。 そしてその点の正体は……全員ガリア軍の兵士や騎士であった! 「何!? ガリアの夜襲か!?」 色めく才人だったが、タバサが緊張した面持ちで否定した。 「……違う。様子がおかしい」 高空からでは正確な様子は分からないが、川を渡るガリア軍は全員がてんでバラバラで、 隊列の概念すら成していない。しかも身分までがごちゃ混ぜであり、貴族が平民の中に平然と 混ざり込んでいる。普通ならば考えられないことだ。 極めつけは、彼らの全員が正常な精神状態にないことだった。船も使わずに夜の川を泳いで 渡ろうなど、正気の沙汰ではない。 才人はハッと、空に漂う巨大クラゲに目を戻した。 「まさか……あいつの影響かッ!」 突然夜空に現れた怪物に注意を向けている才人たちは気づかない。いや、たとえそれが なかったとしても悟ることはなかっただろう。一羽のフクロウが、才人たちの会話を拾える ギリギリの距離を保ちながらシルフィードを尾行していたということに。黒いフクロウの姿は 夜空の中に紛れ込んでおり、また気配を完全に殺して夜の闇と同化していたのだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9098.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十話「ダダVSギギ」 三面怪人ダダ 三面異次元人ギギ 登場 「『ファイアー・ボール』!」 「『ジャベリン』!」 キュルケが火球を、タバサが氷の槍を放ち、自分たちを取り囲んだギギXY08と09を攻撃する。 「ギギッ!」 しかしギギたちは足を全く動かさないで、高速で横にそれて二人の攻撃を回避した。そのまま 07と合わせて、五人の周囲を旋回して翻弄する。 「速いッ!」 キュルケたちは、アルビオンで自分らを軽くあしらったガッツ星人を思い出した。その時と全く同じ、 慣性すら無視した超高速移動だ。しかも今回は、三人もいる。 「これじゃ、こっちから手が出せないわ……!」 ルイズの杖先が大きく迷う。ギギの動きが速すぎて、狙いを定めることが出来ないのだ。 彼女の爆発は強力だが、狙いの精密性は低いので、こういう敵相手には不利。下手をしたら、 味方に当たってしまうかもしれない。 「ギギギギギ!」 「ルイズ、危ない!」 戸惑っているルイズの背後から、XY07が光線銃を撃つ。そこに割り込んだ才人がデルフリンガーで レーザーを受け止めるが、 「うわあッ! あ、相ぼおおおぉぉぉぅ……!」 「デルフ! デルフまで!」 レーザーは魔法ではないので、デルフリンガーも吸収することは出来ずに豆粒ほどに小さくされてしまった。 剣を失った才人は、代わりにガンモードのウルトラゼロアイを取り出す。 「こっちだ、縞々お化け!」 「ギギギギギギ!」 才人は威嚇射撃を行いながら、07を引き寄せてその場から離れていった。 「サイトぉ!」 「ルイズ、危ないわよ! ぼさっとしないで!」 追いかけようとしたルイズだが、そこに08の目から黄色い光線が放たれたので、慌てて 倒れ込むようにかわした。08はキュルケの炎を回避して、ルイズから離れる。 才人の方は、ルイズたちのところから遠く離れつつ、自分を追ってくる07にゼロアイの 光線を発射する。だが07の動きはやはり速く、当てることが出来ない。 「ギーギギギギギギ!」 「! しまった!」 気がつけば、背後を取られていた。今からではレーザーをかわすことは出来ない。 「デュワッ!」 咄嗟の判断でゼロアイを開き、顔に装着した。それとレーザーを浴びるのが同時だった。 「シェアッ!」 一瞬才人の身体が縮むが、ゼロの姿に変身すると、レーザーを振り払って元の等身大の大きさに戻った。 『ウルトラマンゼロッ!』 『ギギ! 何でお前らが侵略者どもに荷担する! お前らの種族は、凶悪な気質じゃないはずだ!』 ゼロは07に指を突き立てて詰問した。ギギは元々、他の種族を積極的に攻撃する敵性異次元人ではない。 かつてウルトラマンコスモスの宇宙であるコスモススペースの地球に侵入したのは、それまで生活していた 次元が崩壊の危機に瀕したため、移住場所を探すためだった。現在は新しい住居となる次元を発見したので、 もう侵略行為に出る必要はないはずなのだ。 そのことに関して、07が答える。 『それは腰抜けの科学者たちだけの話だ! 我らギギ軍人は、軍部の完璧な移住計画を妨害し、 派閥の地位を貶めた地球人とウルトラマンコスモスに報復を行う! だが住居の次元では、 科学者どもが目を光らせていて準備を進められない。それ故に、奴らの監視の目を逃れる土地が 必要なのだ!』 要するに、軍部の地球を新天地にする計画が頓挫し、手柄をギギ科学者たち穏健派に取られたことを 逆恨みしての、派閥争いの延長線上の凶行のようだった。 『そんな身勝手な理由で、ハルケギニアの人々の土地を奪い取ろうってのか! この大馬鹿野郎どもがッ! 何が論理的で完璧だ! 丸っきり反対だぜ!』 『ほざけ! 邪魔者は誰であろうと排除する! 我らの完璧に傷を入れる者は許さん!』 ゼロに光線銃を向ける07だが、その瞬間にゼロは腕をバツ字に組んで、ウルトラ念力を発揮した。 「ジュワッ!」 「ギギィッ!?」 念力によって光線銃からボン! と音が鳴り、黒い煙が立ち昇った。07が引き金をカチカチ鳴らすが、 もうレーザーは出ない。故障した光線銃をかなぐり捨てた07は、来た道を引き返してゼロから逃げていく。 『待てぇッ!』 すぐにゼロが駆け出し、それを追いかけていった。 元の場所では、依然としてルイズたちが08と09に苦戦していた。 「ギギギギギギギギギ!」 「くッ……! さっきからギギギギうるさいわね……!」 嘲笑うように鳴き声を上げるギギたちに、キュルケが苛立って舌打ちした。とそこを、 コルベールに突き飛ばされる。 「危ないミス・ツェルプストー!」 「きゃッ!」 キュルケの頭があった位置を、09の赤い光線が通りすぎていった。キュルケをかばった コルベールは杖を構えると、敵の動きをよく見据え、杖の先から炎の鞭を飛ばす。 「ギギギィッ!」 炎の鞭は08、09を同時に打ち据え、動きを止めた。 「当たった!?」 「意外……」 喧嘩を一度もしたことがなさそうな見た目のコルベールが、タバサも捉えられなかった ギギの動きを見切ったことに、ルイズたち三人は驚かされた。 だがそのコルベールに、舞い戻ってきた07が目から光線を撃とうとする。 「先生ッ!」 『おらぁぁッ!』 コルベールの危機を、ゼロが流星キックで07の頭部を蹴り飛ばすことで救った。07は吹っ飛び、 青い光線は天井に当たる。 「ウルトラマンゼロ! ありがとう……」 『礼はまだ早いぜ、先生。奴ら、立ち上がってくる』 「先生って知ってるんだ……」 キュルケがツッコんでいると、起き上がったギギたち三人は高速移動でゼロを翻弄しようとする。 「シャッ! セアッ!」 だがゼロはその動きを見切り、背後に光線が三方向に分かれるワイドゼロショット、言うなれば スリーワイドゼロショットを撃った。 「ギギギギィッ!」 光線は見事ギギたち三人に同時に命中し、大きく弾き飛ばして壁に激突させた。 ダダの待機している教室では、再びモニターが点き、マグマ星人が命令を飛ばした。 『ウルトラマンゼロだ! 迎撃しろ!』 『了解! ウルトラマンゼロを倒すダダ!』 命令を受けたダダは、腕に力を込めてガッツポーズを取ると、透き通るようにその姿を消した。 そして直後に、学院の外に巨大化した状態で出現した。 「ダ―――ダ―――――!」 「ゼロ! 敵が外に!」 『分かってるぜ! デュワッ!』 窓から外のダダを指差すルイズ。ゼロはテレポートをすると、巨大化してダダの後ろに出現した。 「ダ―――ダ―――――!」 振り返ったダダはゼロへと走っていき、殴りかかる。だが腕を掴まれて、綺麗な一本背負いを 食らって大地に転がった。 「ダ―――ダ―――――!」 悶えるダダだが、その姿が急に消える。直後にゼロの背後に、髭の生えたような顔のダダが 現れて羽交い絞めにした。 「さっきのと顔が違うわ! あいつも複数いるの!?」 塔から中庭に飛び出したルイズたちは、ダダの顔を見て疑問を抱いた。しかしそれは違うことを ゼロは知っていた。 『つまらねぇ真似はよせ! 本当は一人だけなんだろ!』 ダダを振り払いながら突きつけるゼロ。ダダには顔を三パターンに変える能力があり、 複数いるように見せかけて敵を欺く戦術を得意とする。だがタネが割れている手品など、 何の意味もない。 『ぜああぁぁぁぁッ!』 「ダ―――ダ―――――!」 三つ目の顔に変わったダダに瞬時に接近し、ボディに連続パンチを入れると、横拳を入れて 大きく殴り飛ばした。ダダは格闘戦に優れてはいないようで、ゼロに一方的に押される。 その時、学院から新たな敵が飛び出して大地の上に立った。 「ギギギギギギギ!」 「! あれは、さっきの奴じゃない!」 「顔が三つになってる……!」 新たな敵は巨大化したギギだった。しかし、ただ巨大化しただけではない。三人が重なり合って 合体することで、首の三方向に顔面を持った、プログレスという状態になっている。 『邪魔だ、どけぃ!』 「ダダッ!」 巨大化、合体したギギは倒れているダダを蹴飛ばして、ゼロへ悠然と近づいていく。ゼロは その足元にビームゼロスパイクを撃ち込む。 「ギギギギギギ!」 だがギギは巨大化しても損なわれていない高速移動能力で光弾を回避し、ゼロの周囲を 旋回して翻弄する。背後に回ったところで、正面の顔から青い光線を発射して攻撃した。 「ゼアッ!」 「ギギギギギギギギギ!」 ギギの左側に逃れるゼロだが、相手の左後方へ回ると、黄色い光線が飛んでくる。反対側へ 転がっていったら、赤い光線を撃たれる。三方向に顔面を持つギギは、直立したまま全方位へ 攻撃することが出来るのだ。360度に隙がなく、ゼロを寄せつけない。 『だったら真上はどうだ!?』 しかし頭上だけは唯一の死角。それを見抜いたゼロが上から攻撃しようと飛び上がる。 「ギギッ!」 だがその瞬間にギギが三人に分離すると、07が素早くゼロの後方に回り込み、三人同時に 顔から光のロープを発して左腕、右腕、両足を縛り上げた。 『何!? ぐッ、ぐおおおぉぉぉぉ! 身体が、引き千切れる……!?』 『我らの切り札、重力制御光線グラビトンビーム。このままバラバラにしてくれる!』 ゼロを空中に持ち上げたギギたちが、グラビトンビームで締め上げる。ゼロは光線から 逃れようともがくが、光線はきつく締めつけて離れない。 『だったらこうだ! うおおおぉぉぉッ!』 捕まった状態でストロングコロナゼロに変身するゼロ。しかしストロングコロナの怪力を以てしても、 グラビトンビームは振りほどけない。 『無駄だ! どんな力があろうと、これから逃れることは出来ない! お前は最早死を待つのみだ!』 豪語する07。が、ゼロは動じなかった。 『ロープが千切れないんなら……根元のお前らを引っこ抜くッ! おおおおおぉぉぉぉぉッ!!』 「ギギィ!?」 ゼロは勢いよく大空へ飛翔。それによりギギ三人がビームに引っ張られて持ち上がり、 アメリカンクラッカーのように衝突し合う。そして、 『だりゃああああぁぁぁぁぁぁ――――――――!!』 「ギギィーッ!」 大空からゼロが急降下したことにより、三人とも大地に激しく叩きつけられた。根元のギギたちが 大ダメージを受けたことにより、グラビトンビームは消滅した。ギギたちがストロングコロナの パワーに抗えている訳ではない点を突いての攻略法だった。 「ギギギギギギギ……!」 それでもしぶとく立ち上がったギギたちは再度合体して、プログレスに戻った。敵が完全に 再起する前に、ゼロがとどめの一撃を繰り出す。 『でりゃああああああああッ!』 赤く燃え上がるウルトラゼロキックが、ギギの頭上に迫る。しかしギギはその瞬間に頭上に バリアを展開し、ゼロキックを受け止めた。以前に頭頂部の弱点を突かれたことでコスモスと 地球人に敗北を喫した反省から生み出した対抗策だ。 バリアはストロングコロナのキックすら止めた。が、ゼロの方はそれで止まらなかった。 『メビウス! 技を借りるぜ! うおおおおおぉぉぉぉ――――!』 飛び蹴りの姿勢のまま、高速きりもみ回転を始めるゼロ。それにより足の炎は再燃し、 バリアがゴリゴリ削られていく。ゼロの先輩となるウルトラマンメビウスが、あらゆる光線を はね返す身体を持つリフレクト星人を攻略するために、レオの課した特訓を乗り越えて開発した、 摩擦熱でキックの破壊力を高める技、スピンキックだ。 果たしてスピンキックはバリアを突き破り、ギギの頭頂部に突き刺さった。 「ギギギギギギィ――――――――――!」 頭頂部から火花を噴いたギギはガクリと崩れ落ちて、大爆発を起こした。 「ダ……ダ―――ダ―――――!」 元の顔に戻ったダダはギギの敗北を目にして、やけくそ気味にゼロに向かっていく。だが同じく 通常状態に戻ったゼロのエメリウムスラッシュを顔面に食らって大火傷を負った。 「ダ―――ダ―――――!」 きりきり舞いしてまたも倒れたダダが、テレポートで姿を消した。ゼロは周囲を警戒するが、 ダダは現れる気配を見せなかった。 それもそのはず、ダダは等身大の大きさで教室に戻っていた。そしてほうほうの体でモニターの スイッチを入れて、マグマ星人に報告する。 『駄目だ……ウルトラマンゼロは強い……!』 それを聞いたマグマ星人はしかし、冷酷に命令を下すだけだった。 『速やかに任務を完了させろ! 急げ!』 「シエスタさん……外の状況は、どうなってるんですか……?」 「だ、大丈夫です。すぐにゼロが敵をみんなやっつけますよ」 ルイズの部屋では、ベッドの上の春奈がシエスタに尋ねかけていた。二人とも、学院に 異常が起こっていることと、外でゼロが戦い始めたことはすぐに気づいた。しかし春奈は 激しく運動させられない状態。そのため、ずっと息を潜めていたのだ。 『シエスタ、危ない! 敵だ!』 「え? きゃあッ!?」 だが、この場所をダダに突き止められてしまった。いつの間にか部屋の中にダダが侵入し、 火傷を負った顔で光線銃を向けている。 「は、ハルナさん!」 シエスタは春奈を抱えながら、窓際へと追い詰められていく。窓を開放してギリギリまで ダダから逃れるが、落ちればどっちにしろ助からない。 にも関わらず、シエスタと春奈は足を滑らせて窓から転落してしまった。 「きゃああああああああああ!?」 「見て! シエスタと、誰かが落ちてくる!」 キュルケがそれに気づいて叫んだ。タバサが杖を握り直したが、それより早くゼロが動く。 『うおおおおおッ! 間に合えぇッ!』 ヘッドスライディングするように二人をキャッチ。静かに地面の上に降ろしたので、ルイズたちは ほっと息を吐いた。 長く変身しているのでカラータイマーが鳴るが、構わずにルイズの部屋の中のダダを見下ろすゼロ。 それに脅えたダダは、光線銃をバンバン叩いてから引き金を引く。 故障の直った銃から光線が放たれ、ゼロに浴びせかけられるが、ゼロはそれを振り払うように跳んだ。 と同時に、ダダが部屋の中から消える。 『あだッ!』 ゼロは光線の効果で人間大まで縮小され、部屋の中に転がった。代わりに、再度巨大化した ダダが三つ目の顔で外に仁王立ちする。 『こんなもの……デュワッ!』 身長差を逆転されたゼロだが、気合いを入れて身体を光らすと、元の大きさに一瞬で戻った。 ミクロ化機の効果まで通用しないとなって、ダダはとうとう根を上げたか、透明化して戦場から逃げ出す。 しかしゼロに、宇宙人連合の刺客をみすみす逃がすつもりはなかった。両目から空へウルトラ眼光を 発すると、空を飛んで逃走しているところのダダの姿を暴き出す。そこに本気のワイドゼロショットを撃ち込んだ。 「ダ―――ダ―――――……!」 撃たれたダダは黒い煙を立ち昇らせながら墜落。野原にぶつかると、爆発四散した。 敵を全て倒したゼロだが、まだやることは残っている。ルナミラクルゼロに変身すると、 自分から小さくなってルイズたちの下に立った。 「わッ!? ゼロ!」 『宇宙人たちに小さくされた奴らはそこだな』 コルベールが運んできたケースを地面の上に降ろすと、ゼロが超能力でギギの使っていた 光線銃を手元に召喚し、更に復元して故障を直した。それから銃の側面のダイヤルの向きを 反対にし、小さくされた者たちにレーザーを照射した。ギギの光線銃は、ダイヤルを逆にすることで 機能が逆転するのだ。 「わああああッ!」 「ふう、元に戻れたぜ。もう小さくなんのはごめんだ」 すると小さくされた人たちはデルフリンガーも含めて全員、元の大きさに戻った。一気に 元に戻したので、中庭が一気に埋まってしまったくらいだ。 皆を元に戻すと、ゼロは光線銃を握り潰して改めて破壊した。こんなものがあったら、 また騒動の種になる。 「デュワッ!」 「ありがとーう、ウルトラマンゼロー!」 何もかもを元通りにしたゼロは、ようやく空へ飛び立って去っていく。それをコルベールら、 助けられた人たちが手を振って見送った。 さて、学院の侵入者が退治されると、学院はその事後処理を行うことになり、生徒たちは 一旦寮塔に戻ることとなった。才人たちはそのどさくさに紛れて、春奈をルイズの部屋へと連れ帰った。 「よいしょ……春奈、大丈夫だったか?」 才人がお姫さま抱っこした春奈を、ベッドに戻して寝かせた。その様子を、ルイズがイライラした 様子でながめていて、シエスタはそのルイズに戦々恐々としていた。 「うん……。落っこちた時は怖かったけど、平賀くんのお陰で怪我一つないよ」 気遣われた春奈は才人に頬を赤く染めながら笑顔を向ける。それで才人は釣られて笑った。 「はは。俺が助けたんじゃないよ。みんなゼロがやってくれたことさ」 「それでも、平賀くんも私のために戦ってくれたんでしょ? 嬉しいな……」 「春奈……」 才人と春奈が見つめ合っていると、ルイズがわざとらしく咳払いして、注目を自分に集めた。 「サイトだけじゃなくて、わたしも一緒だったんだけど? わたしの方には、何かお礼はないのかしら?」 「えッ、えっと……」 春奈が言いよどむと、才人が顔をしかめてルイズを咎める。 「やめろよルイズ、そんなきつい言い方して。春奈は病人なんだから、もうちょっと気遣ってやれよ」 と言うと、ルイズはますます不機嫌さを募らせる。 「何よ、随分親切にするじゃない。そこまでハルナが大事なのかしら?」 「何言ってるんだよ、病人なんだから大事にするのは当たり前だろ。もう、そんなに大声出してたら、 春奈の身体に障るかもしれないじゃねえか」 才人の物言いに、ルイズは更に腹を立てた。 「何よそれ! いくら病人だからって、わたしのことはどうだっていいっていうの? 大体、 わたしには、そんなに優しくしてくれたことないじゃない……」 「だってお前、いつも元気じゃんか。それとも病気になりたいのか? 変な奴」 「変って何よ変って! そういうことじゃないわよ! もう、馬鹿なんだから」 ブツブツ不平を漏らしていると、春奈がキッと目を吊り上げてルイズを睨んだ。 「いい加減にしてください」 「ッ!」 「平賀くんは、別にルイズさんの道具ではありません。それは一番ルイズさんが知っているはずでしょ?」 「あ……あんたに、そんなこと好き勝手に言われる筋合いはないわよ! それに、何よ! 病気病気って、そんなに病気が偉いわけ? サイトなんて知らないんだから!」 春奈に逆上したルイズは、そのまま部屋を飛び出していってしまった。 「あ、おい、ルイズ!」 追いかけようとする才人だが、シエスタがそれを止めて申し出た。 「わたしが行ってきます。今はサイトさんよりは、わたしがお話ししたほうが良いと思いますし。 サイトさんは、ここで待っててください」 と才人を部屋に留めると、シエスタも部屋を出ていった。 部屋から飛び出したルイズは、塔の空き部屋で一人自省をしていた。 「……なに考えてるのよ、わたし。自分でもわけ分かんない。そもそもサイトは悪くないのに…… あんなこと言っちゃって」 一人つぶやいていると、シエスタが追いついて中に入ってきた。 「ミス・ヴァリエール。ここにいたんですね? 探しましたよ」 「シエスタ……。な、何の用よ」 「サイトさんは、部屋に残ってもらいました。ここにはわたしとミス・ヴァリエール、それと ジャンボットさんだけです。他の誰にも話は聞かれません」 「へ?」 急にそんなことを言うシエスタに面食らうルイズ。シエスタはそのまま続ける。 「ミス・ヴァリエール。お気持ちは良く分かります。今のサイトさんは、ハルナさんが現れてから、 彼女のことしか考えていない……。いえ、それは言い過ぎとしても、今はハルナさんのことを 一番に考えてます。もちろん、それはサイトさん本来の優しさであることは、わたしも分かってるつもりです」 「……」 「ハルナさんはどうみても、サイトさんに気があると思って間違いないでしょう。このままでは、 サイトさんはハルナさんに取られてしまいます。いえ、それだけならまだいいのですが…… 最悪、時が来たらハルナさんと一緒に元の世界に帰っていってしまうかもしれません」 『それで良いではないか。サイトが故郷に帰るのは、至極当然の権利だ』 「ジャンボットさん、今は黙ってて下さい。これは女の話なんです」 ジャンボットが口出しすると、シエスタにたしなめられた。その声音に言い知れぬ迫力が あったので、ジャンボットは思わず閉口した。 「ミス・ヴァリエール、率直に言います。今の間だけ、手を組みませんか?」 「あんたの言い分は分かったわ。でも、平民がわたしに指図をするなんて、どうかと思うわ」 素直にシエスタの申し出を受け入れられないルイズを説得するシエスタ。 「ミス・ヴァリエール。あなたの信条に口出しする気はありませんが、今はそんなに甘い状況ではありません。 ハルナさんはサイトさんと同じ世界の人です。サイトさんは口にはしませんが、きっと、今も故郷が恋しいはずです」 セーラー服の騒動を思い出すルイズ。才人があんな行動に出たのは、故郷を懐かしんで という理由もあったのだろう。 「そんなサイトさんにとって、ハルナさんは故郷なんです。きっと、サイトさんはハルナさんに、 特別な感情を持ってるはずです。しかも悪いことに、ハルナさんもサイトさんに故郷を感じています。 そして、それを利用しようとしています」 「り、利用!?」 「たとえば、ハルナさんの病気。触った時分かりましたが、あの時にはもう熱は下がってました」 「え、本当?」 『それは確かだ。私もバイタルチェックをしたが、少なくとも今は自力で立てない状態では 決してない。それなのにサイトに甘えるので、奇妙には感じていた』 ジャンボットも口添えした。 「……それじゃ、なに? あの娘は、仮病を使ってサイトの親切心につけ込んでるってわけ?」 「そうです。正直もので、優しくて、だまされやすいサイトさんは、それに気づいていません。 ハルナさんは、サイトさんをより占有する方法として、仮病を使ってきました。きっと、 わたし達とサイトさんの関係を見て、勝負をしかけてきたと思われます。このまま放置していたら、 ハルナさんの思うつぼです」 「ふ、ふふ……。わたしの部屋で、そんな真似が許されると思われてたとはね……。ずいぶんと 舐めたことをしてくれるじゃないの」 怪しい感じに笑ったルイズは、その気になってシエスタに向き直り、固い握手を交わした。 「いいわ。あの性悪女をやり込めるまでの間だけ、休戦といきましょう」 「では、同盟成立ですね。頑張りましょう。サイトさんのためにも!」 「サ、サイトはどうでもいいのよ。ご主人様のこと、ぜんぜん考えてくれないし……。あの バカ使い魔のことなんか……」 あくまで意地を張るルイズ。その様子を端から見ていたジャンボットは、はぁとため息を吐いた。 『何やらおかしなことになってきたな……。やはり、有機生命体はよく分からない。私も、 ジャンナインのことをまだまだとやかく言えないな……』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9380.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百二十三話「夜があけたら」 蘇生怪人シャドウマン 精神寄生獣ビゾーム 登場 『……サイト、起きろッ!』 深夜、寝ついている才人たち三人はジャンボットの鋭い呼び声によって起こされた。 「う、うぅん……どうしたんだ……?」 目をこすってベッドから身を起こす三人。シエスタが枕元のテーブルからブレスレットを 手に取ると、ジャンボットが続けて告げた。 『異常事態発生だ! 私のセンサーが礼拝堂で侵入者の集団をキャッチした! いや、既に 侵入していたと言うべきか!』 「何だって!?」 その言葉で才人たちは一気に目が覚め、ベッドから飛び降りた。才人とルイズはマントを 羽織り、それぞれの得物を身につける。 ルイズがジャンボットに問う。 「やっぱり、あの死体が敵の刺客だったってこと?」 『いや、遺体自体は今も礼拝堂に残されている。恐らくあれらに宿されていたものが、学院を 徘徊しているようだ。今一つ正体が掴めない……気をつけろ、手強い相手になりそうだぞ』 「分かった、ありがとう」 うなずいた才人はルイズとシエスタに振り返った。 「ルイズたちはテファの無事を確認してくれ。俺はタバサの方を見てくる!」 「分かったわ!」 「サイトさん、ご武運を!」 二人に言い残して、才人は素早く部屋の扉から飛び出していった。 才人がタバサの部屋に到着する前に、タバサの方も不気味な気配を鋭敏な感覚で感じ取り、 覚醒して杖を手にしていた。 更に感覚を研ぎ澄まして、敵の数や位置を探ろうとした。が、どうにも気配ははっきりとせず、 どの程度近づいてきているのかも不明瞭であった。タバサの生存本能が、危険の信号を鳴らす。 「パムー……」 ハネジローも危険を感じ取ったか、小刻みに震えて怖がっていた。タバサはそんなハネジローを 籠ごとベッドの下に隠した。 「ここにいて」 そして下手に動かずに杖を構えて待ち伏せしていると……部屋の扉がいきなり軋んだ音を 立てて開かれた。しかし、廊下には誰もいない。風か何かが扉を押したのだろうか? タバサはそうではないことを優れた観察眼で見て取った。何もない場所を、人の影が這っているのだ! 直ちに影に杖の先端を向けるタバサ。すると影が立ち上り、怪しい霧とともに三人の男たちの 霊体……シャドウマンの正体を見せた。 「ッ!」 目の前にはっきりと現れた幽霊という、常人なら腰を抜かしてしまいそうな事態だが、 闇の世界をくぐり抜けてきたタバサは動じなかった。素早く呪文を唱え、氷の矢を飛ばして 攻撃する。 が、氷の矢はシャドウマンをすり抜けて壁に刺さるだけであった。実体を持たない幽霊には、 魔法の力も通用しないようだ。 タバサは分が悪いと見て窓からの脱出を図るが、それより早くシャドウマンは霧を噴出して タバサに浴びせかけてきた。 「うッ……!」 一瞬視界をふさがれるタバサ。そして霧が晴れると……自分の身体が豆粒のように小さく なっていることに気がついた! 「!?」 幽霊の奇怪な妖術か。さすがに動揺するタバサ。 シャドウマンは棚から透明のグラスを取り出すと、逆さまにして小さくなったタバサに 覆い被せた。完全に無力化されたタバサは、ただのグラスの中に閉じ込められてしまう。 「……!」 シャドウマンがグラス越しに、縮小したタバサをじっと見下ろす。そのおぞましい光景に、 タバサも恐怖を覚えて震え上がった。 タバサの部屋を目指して全速力で向かおうとしていた才人だが、途中の廊下で足止めを 食らっていた。残りのシャドウマンが行く手に現れ、道をさえぎっているのだ。 「この幽霊が侵入者の正体か……! うおおおッ!」 才人は問答無用でシャドウマンに斬りかかっていくが、デルフリンガーの刃はシャドウマンを すり抜けてしまった。 「相棒! さすがの俺でも、幽霊は斬れねえみてえだ! 面目ねえ!」 「駄目か……! それじゃあどうすれば……!」 才人はシャドウマンの放ってきた霧を後ろに跳びすさることでかわした。しかしシャドウマンを 越えないことには、タバサの部屋までたどり着くことは出来ない。 「こうなったらゼロに変身するか……!」 ゼロアイを出そうとした才人だったが、そこに後ろから聞き慣れた声がした。 「サイト、伏せてッ!」 ルイズだった。ルイズは掲げた杖を、才人がしゃがむと同時に振り下ろした。 小規模な爆発が廊下の中央で起こり、シャドウマンは爆発の光にかき消されて霧散していった。 「やった!」 「すっげ……! ルイズの爆発は霊体にも有効なのか……!」 “虚無”の魔法の威力を改めて知り、感心する才人。 だが今の爆発の音で、寮塔のあちこちの部屋から動く気配が発生した。生徒たちが目を 覚ましてしまったみたいだ。 ルイズは手短に才人に告げる。 「サイト、ティファニアは無事だったわ。後はタバサだけよ。ここはわたしが収めておくから、 早く行って確かめてきて!」 「よし分かった! ありがとな!」 ルイズに感謝の言葉を返し、才人は駆け足でタバサの部屋の前までたどり着いた。壁に氷の 矢が刺さっているので、思わず息を呑む。 「タバサッ!」 慌てて部屋の中に駆け込むと――タバサの姿はなくなっていた。空のグラスが床に転がっており、 窓は開け放たれて風がカーテンをバサバサ揺らしていた。 「しまった! 遅かったか……!」 窓に飛びついて外を見回したが、見える範囲にもタバサらしき影はなかった。既に連れ去られた 後だろうか。 「すぐ追いかけないと……! でも敵はどこへ逃げたんだ……」 才人がつぶやいていると、窓の外からバッサバッサと翼を羽ばたかせて、シルフィードが 彼の眼前に舞い降りてきた。カーテンを揺らす風は、シルフィードの羽ばたきだったのだ。 「パムー!」 シルフィードの頭の上にはハネジローが乗っかっていた。シルフィードはハネジローが 呼び寄せたようだ。 「ハネジロー、お前はタバサがどっちへ連れ去られていったか知ってるのか?」 「パム!」 コクリとうなずくハネジロー。 「でかした! すぐ案内してくれ! シルフィードも頼んだぞ!」 「きゅいー!」 才人は迷いなく窓から飛び降りてシルフィードの背中に乗り移り、シルフィードはハネジローの 誘導の下に夜の森へ向けて飛び立っていった。 その頃、シャドウマンに捕まり、学院外へ連れさらわれたタバサは、森の中の開けた場所に 投げ出されて解放された。大きさも元に戻される。 「ここは……?」 辺りを見回して訝しむタバサ。現在地は学院からそう離れた場所ではなく、当然トリステインの 領地。そんな場所にどうしてわざわざ自分を解き放ったのか。それも大きさを元に戻して。何か裏が あるに違いない。 そのタバサの読み通りに、夜の闇の中からシャドウマンとは違う、怪しい人影がぬっと出現した。 「わたしの主人の元まで連れていく前に、あなたの心を闇で染め上げておこうと思ってね」 「!」 振り返ったタバサが杖を向けるが、現れた者の姿を目の当たりにして驚愕で固まった。 「その姿……わたし……!」 目の前にいるのは、黒衣を纏った自分自身。そうとしか言い表せなかった。 一瞬だけ唖然としていたものの、タバサはすぐに自分そっくりの相手に杖を向け直した。 「撹乱のつもり?」 短く告げると、黒タバサは酷薄な笑みを浮かべた。 「そう言うと思った。分かってたわ。何故なら、わたしはあなた自身なんだから。わたしは あなたの心の闇よ、シャルロット」 「……ふざけないで」 「ふざけてなんかいないわ。アーハンブラ城で怪獣に呑まれたことがあったでしょう? 実はあの時、わたしがあなたの精神に寄生してた。そして今日、活動を始めたのよ」 黒タバサの言をにわかには信じられないタバサだったが、自分の敵は常識外の怪物を 次々送り込んできている。精神に寄生する怪物がいてもおかしくはない。 それにそんなことは問題ではない。やるべきことは、今面前にいる敵を倒すことだ。 そんなタバサの思考を見通したか、黒タバサが嗤いながら言葉を発する。 「ふふッ、早速わたしに攻撃しようというのね。実にあなたらしい……。親から与えられた 名を捨て、冷徹な人形になったつもりで、人間らしい感情を捨て切れない半端なあなたらしい、 自分が傷つきまいとするばかりにひたすらに牙を剥く、みじめな子犬のような行動」 長々と挑発めいたことを述べる黒タバサに、タバサは眉間に皺を刻んだ。そして呪文を完成させ、 ウィンド・ブレイクで吹っ飛ばそうとする。 だが同時に黒タバサが、全く同じ魔法を放ってきた。しかも相手のウィンド・ブレイクは 自分の風をあっさりと押し返し、タバサの方が吹き飛ばされてしまった。 「うッ……!?」 地面にしたたかに打ちつけられるタバサ。倒れた彼女を見下ろす黒タバサが告げる。 「あえて同じ魔法で打ち破ってみせたわ。どうしてわたしの魔法の方が上回ったか分かる? ……わたしはあなたの心の闇。あなたの綺麗な部分より、汚く暗い部分の方がずっと大きいと いうことよ」 「!?」 心にグサリと来るものを感じ、反射的に黒タバサの顔を見上げるタバサ。 「だってそうでしょう? 自分の目的のために、親の仇にへりくだることを是として、様々な 非合法な行いに手を染めてきたのだから。今までに何人殺して、己の目的の犠牲にしてきたか 覚えてる? 挙句の果てには友達も殺そうとして……その相手を勇者なんて、厚かましいにも 程があるんじゃなくて?」 「……やめてッ……」 思わず耳をふさぐタバサ。これまであらゆる人間から罵声を浴びて、耐えてきたタバサで あったが、才人に向ける想いを傷つけられることは耐え難かった。 しかし耳をふさいでも、黒タバサの声は脳に直接響いてくるかのように聞こえてくる。 「勇者に仕える騎士? 真っ黒に汚れ切ったその身で、よくそんな美辞麗句が唱えられるものね。 このこと、本当は自分がよく分かってるでしょう? 何せわたしはあなたの闇……わたしの言葉は あなた自身の言葉なのだから」 違う。そんなことはない。……だが否定し切れない。タバサはお化けを怖がる幼児のように、 うずくまり目を固くつむってブルブル震える。 お化けなんて怖かったのはずっと昔のことだ。怪物への恐怖も、ファンガスの森で断髪と ともに振り切った。 しかし、自分が抱えたほんのりと温かい感情。それを否定されることは、とてつもなく恐ろしかった。 「――そこまでだッ!」 その時、闇を切り裂くように、あの男の子の声が空から届いた。 目を開けて見上げると――勇者が、シルフィードの背から黒タバサの面前、自分の盾と なるように着地した。 「タバサ、無事だったか? 安心しろ、俺とゼロが来たからにはもう大丈夫だ」 振り返って、力強い微笑みを見せる才人。呆然と彼の背中を見つめるタバサに、シルフィードと ハネジローが覆い被さった。 「お姉さま、こんなに震えてかわいそう。あいつにいじめられてたのね」 「パムー」 肌から伝わる二匹の体温が、タバサの身体も心も温めた。 才人にデルフリンガーの切っ先を向けられた黒タバサは、それでも動じず不敵な笑みを返す。 「勇者さまのご到着という訳ね。けれど……」 黒タバサの見た目が、一瞬にして才人のものに変わった。才人は姿を変えた相手をきつく にらみつける。 「やっぱり、倒してはいなかったのか……!」 「そうさ! 言っただろう。俺はお前の心の怪物だと。自分自身の心を倒すことなど出来やしない。 ――そして俺は、そのタバサの闇でもある」 黒才人に指を差され、タバサはビクリと身を震わせた。 「見ろ、今の哀れな姿を。あいつは心の闇に呑まれる寸前だったのだ。そんな弱い女を守る 必要がどこにある? そいつの弱さは、そいつの闇は! いずれお前の足を引っ張り、お前を 破滅させるッ!」 黒才人の言葉がタバサの心をえぐり、タバサは縮こまる。シルフィードはタバサを苦しめる 黒才人をキッとにらんだ。 「俺には見える! その女は厄災を呼び込むだけだ! お前はそのせいで、故郷に帰ることも 出来ずに闇に呑まれ、その女を、この世界を呪いながら死んでいく! そんな結末をたどりたいのか!?」 黒才人の突きつける暗黒の未来。それに対して、才人は、 「勝手なことばっか抜かすんじゃねぇッ!」 思い切り突き返した。 「……!」 タバサはハッと顔を上げて、才人の背中を見つめる。 「タバサは弱くなんかねぇ! 俺は何度も、こいつに助けてもらった! タバサは勇敢なんだ! それを俺はよく知ってるし、タバサの心に強い光があるって分かるんだッ!」 才人の、タバサを認める言葉が、タバサの弱り切った心を温めていく。 「それに、心の闇くらい誰にでもあるもんだろうが! 俺自身、とても綺麗な人間なんて 言えねぇしな。けど、闇があるから心は光を放つ! 人は闇を抱えて、乗り越えることが 出来る! 俺は信じてるッ!」 才人の熱い言葉の数々をぶつけられた黒才人だが、冷笑を浮かべたままだった。 「やっぱり、言ったところで分からないか。だったらその身に直接教えてやろうッ!」 突然、黒才人の周囲にシャドウマンの霊体がいくつも現れ、漂った。 「!!」 「おおおおぉぉぉぉぉッ!」 それら霊体全てが黒才人に吸い込まれていき――身体がみるみる内に膨れ上がって変貌を 起こしていった。 「グフォフォフォフォフォ!」 そしてサタンビゾーをより人型にしたような巨大怪人への変身を遂げた。 才人とタバサの心の闇を写し取って暗躍していた精神寄生獣、ビゾームが真の姿を現したのだ。 『早くお前の光を開放しろ。人間の光など、大いなる闇の力、はるかなる星の叡智には敵う ものではない!』 ビゾームは才人を挑発し、変身を促す。あえて真正面から戦うことで、才人の心を折ろうと いう目論見か。 才人はその挑戦を真っ向から受けるつもりだ。 「やってやろうじゃねぇか! 後で今のなしって言っても聞かねぇから覚悟しやがれッ!」 力を込めて、ゼロアイを装着! 「デュワッ!」 才人が光に包まれ、ウルトラマンゼロがビゾームの正面に立つ。 『テメェみてぇな輩のこすいやり口は許せねぇ! ばっちり引導を渡してやらぁッ!』 ゼロとビゾームが互いに走り寄り、格闘戦を開始。 「シェアァッ!」 「フォッフォッフォッ!」 ゼロの拳を差し込まれたビゾームの腕が止め、ビゾームの膝蹴りをゼロが蹴りを当てて止める。 両者一歩も退かない互角の戦いを演じる。ビゾームの戦闘能力はサタンビゾーを超えるものであった。 しかしゼロは相手の一瞬の隙を突いて、腕を捕らえて高く投げ飛ばした。 『でりゃあぁぁッ!』 「フォフォフォッ!」 しかしビゾームはクルクル回転しながら綺麗に着地。振り返りざまに右腕から光剣を生やした。 『次は剣の勝負ってとこか……!』 対するゼロもデルフリンガーを召喚して柄を握り締める。 『行くぜデルフッ!』 『おうよ! あんなナマクラ、へし折ってやんなッ!』 デルフリンガーとビゾームの光剣が激突し、激しく火花を散らす! ビゾームは風を切る剣さばきで、すさまじい斬撃のラッシュを叩き込んでゼロを攻め立てる。 しかしゼロの剣戟も全く劣っておらず、ビゾームの斬撃を全て弾き返した。 「セァッ!」 「グフォフォフォ……!」 息を吐かせぬ剣戟の後、ゼロとビゾームは鍔迫り合いに持ち込む。 が、ゼロの腕に一層の力が込められると、デルフリンガーの刃が光剣を粉砕した! 「グフォオッ!」 『今だッ! せぇいッ!』 ビゾームが押されてのけ反ったところに、その身体をZ字に切り裂いた。 「デァッ!」 更に後ろに跳びながらゼロスラッガーを飛ばし、ビゾームを縦に両断。ビゾームは八つに 分かれてバラバラになった。 『どんなもんだ!』 デルフリンガーを下げて見得を切るゼロ。普通ならこれで戦いが終わることだろう……。 しかしバラバラになったビゾームの破片は、一つ一つが変形して小型のビゾームになって復活した! 『何ッ!?』 「グフォフォフォフォフォフォフォ!」 八体になったビゾームは一斉に顔面の発光部から怪光線を発射。 『うおあああぁぁッ!』 集中攻撃にさしものゼロも吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。 「あぁッ! ゼロが危ないのね!」 「パムー!」 戦いを見守っているシルフィードたちが思わず発した。すると、タバサがゼロに向けて叫ぶ。 「立って! 負けないで!」 「お姉さま……!?」 「あなたは勇者なの! この世界を救う……わたしを助けてくれた! 絶対に、闇に負けて しまっては駄目ッ!」 タバサの応援の言葉に、ゼロの中から才人が応じた。 『ああ、もちろんだ……!』 「……!」 才人の声に反応するかのように、ゼロが身を起こす。 『俺は、俺たちは! 闇を照らしてみせるぜッ!』 ゼロは左腕をまっすぐ横に伸ばし、腕を組んでワイドゼロショットを発射した! 「セェェェェェアッ!」 光線を薙ぐことで、ビゾームを一気に八体纏めて爆破させる。 「グフォォ――――――ッ!」 粉々に吹っ飛んだかに見えたビゾームだが、抜け出た魂が一箇所に集い、元の一体の姿に 合体して復活した。 『無駄だ! 闇は途絶えることがない。お前たちは闇に抗おうとする限り、永劫の戦いの 運命に陥るのだ!』 不死身の肉体を見せつけて、脅しを掛けるビゾーム。 それでも、ゼロたちは決して屈しなかった。 『上等だぜぇ! 何度立ちはだかって襲いかかってこようとも、その都度ぶっ飛ばしてやるだけだぁッ!』 拳を握り締め、再度ビゾームに拳を打ち込んでいくゼロ。相手の反撃を払いのけ、ひたすら 打撃を見舞っていく。 そんな中で才人は叫んだ。 『お前らがどんな手段を用いようとも! 何度襲い来ようとも! タバサは絶対に渡さねぇぜッ!』 彼の言葉は、タバサ本人に届いていた。 『タバサは俺の大事な仲間なんだ! どこにも行かせねぇぜ! 絶対に守り抜くッ!』 才人の語ることに……タバサは頭に血が昇りそうな気持ちがした。 ああ、彼はどうしてわざわざあんなことを言ってしまうのだろうか。自分は騎士になると 誓ったのに……分不相応な想いを抱いてはならないのに……。 あんなことを聞いてしまっては、この胸の鼓動がどんどん高鳴ってしまうではないか。 『光が高まってきたぜ! この光で、フィニッシュを決めてやるッ!』 ゼロは右手を固く握り締めると、その拳に強い輝きが宿った。戦う度に昂っていく才人と ゼロの心の光が、その手に発現しているのだ。 『おおおぉぉぉぉッ!』 光の拳を振り被って、ゼロはビゾーム目掛け駆けていく。 「グフォッフォッフォッフォッ!」 ビゾームの方も右手に闇の力を纏わせて、ゼロの仕掛ける勝負を正面から受けて立つ。 ゼロとビゾームがどんどんと距離を詰めていく。 『だぁぁぁぁぁッ!!』 そして互いの拳が、互いの頬を打った! 「……!」 激闘の音が一気に静まり、場は一時的に静まり返る。そして……。 ビゾームの全身が一気に爆散! 光に照らされて霊体も粉々になっていき、霧散して消滅していった。 「やったぁぁぁぁぁ―――――! やったのねッ!」 シルフィードはハネジローと手を取り合って喜びを分かち合う。タバサは口元をほころばせて、 ゼロとその中の才人を、慕情を乗せた目で見上げた。 変身を解除した才人はタバサの元まで近づいていくと、口を開いて呼びかけた。 「タバサ、俺たち勝ったぜ。さぁ、学院に帰ろう」 「……うん」 タバサは熱を込めた目つきのまま、才人にコクリとうなずいた。 その時、彼らの視界に森の向こうから昇ってきた太陽の日差しが入り込んだ。 「ん、もう朝か」 才人はまぶしそうに朝日を見やると、タバサに振り返って告げた。 「心の闇が消えることはない……。それは本当のことだろうさ。でも、どんな夜にも朝が来るんだ。 俺たちも、何があってもあきらめることなく朝が来ることを信じて、光り輝いて闇を照らしていこうぜ」 タバサは無言でうなずき、日差しに照らされた才人の顔をじっと見つめた。 その眼差しには、ずっとほんのりとした熱がこもっていた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1863.html
前ページ次ページテスト空間/ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 白月と赤月が浮かぶ、幻想的な夜空。 その夜空を、月光に照らされた複数の黒い影が飛んでいる。 その影はけたたましい叫び声を上げながら翼を大きく羽ばたかせ、目的地へ向かっていた。 その影の中の、80メイルをも超える巨大な個体の背中で、青く短い髪をなびかせ、少女が悠然と本を広げている。 影達の主人、シャルロット・エレーヌ・オルレアン、『雪風のタバサ』である。 タバサは本から顔をそらし、周囲を飛ぶ影に向かって一言呟く。 「うるさい」 影達はタバサの呟きを聞き、一斉に叫ぶのをやめる。 主人の機嫌を損ねてしまえば、食事を抜かれてしまうからだ。 辺りに静けさが戻り、タバサは再び本へ視線を落とす。 その本には、こう書かれている。 『超遺伝子獣』 ―― 超古代文明による遺伝子操作の結果の産物である。 単為生殖ができる、つまり単独で卵を産み、卵から産まれた個体も体長は数メイルあり、しかも仲間をも捕食してどんどん成長する。 頭はやや平たく、幅広くなり、目は目立たない。地上での活動も自由自在である。 地上を走り、翼を振り回して殴り掛かり、低く飛び上がって足の爪で攻撃をかけることもある。 また、自己進化能力があり、成長した個体は眼に遮光板の様な物を持ち、太陽光線も平気になる。 ―― タバサの使い魔達、それは異世界で『災いの影』と恐れられている超遺伝子獣、『ギャオス』であった。 タバサは、成体のギャオスをサモン・サーヴァントで異世界から召喚し、使い魔の契約を交している。 さらに、成体であるため卵が産まれ、産まれたギャオス達にも使い魔のルーンが刻まれていた。 しかも、最初に呼んだギャオスも、新たに産まれたギャオス達もタバサに異常になついており、片時も離れようとしない。 そのため、タバサはギャオス達を率いて目的地であるガリアへ向かっていた。 タバサが本を読み終わると、周りを飛ぶギャオス達が再び騒ぎ始める。 どうやら空腹になっているようだ。 「……ついたらご飯」 タバサの呟きに、ギャオス達は喜び、翼を折りたたみ弓状になると、目的地ガリアへ向かって突っ込んでいった。 ガリアの首都リュティスは、人口三十万を誇るハルケギニア最大の都市である。 その東の端に、ガリア王家の人々の暮らす巨大な宮殿、ヴェルサルテルが位置している。 そこから少し離れたプチ・トロワで、王女イザベラがあくびをしながらタバサの到着を待っていた。 「あのガーゴイルはまだ来ないの?」 「シャルロット様は――」 侍女が告げようとした瞬間、天井を破壊しながらギャオスが轟音をたて落下してくる。 イザベラと侍女達は悲鳴をあげながら慌てて逃げだした。 プチ・トロワの前庭に、無数のギャオスが降り立った。 数匹が勢い余って墜落したようだが、頑丈だから大丈夫だろう。 「お、おかえりなさいませ。シャルロット様」 タバサに敬礼する衛士がいたが、他の衛士はたしなめない。 あまりの出来事に呆然として固まっているからだ。 「この子達に食事を」 タバサは敬礼をした衛士にそういって、ギャオス達へ顔を向ける。 庭はギャオス達で埋め尽され、上空にも無数のギャオスが羽ばたきながら旋回している。 ギャオス達の食事を任せると、タバサはつかつかと建物の中へ入っていった。 前ページ次ページテスト空間/ゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9289.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十五話「泣くな失恋怪獣」 硫酸怪獣ホー 登場 ……ウチのクラスにルイズが転校してきてから、一日が経った。第一印象が最悪だったんで、 一時はどうなることかと思ったが……ルイズはきついところはあるけれど、意外と気さくで 人当たりのいいところがあって、案外すぐ打ち解けられた。いやぁよかった。どうしてかそれと 前後してシエスタが妙に不機嫌になっているが……。 何はともあれ今日も登校すると……校舎の玄関口で、そのルイズが一人の男子といるところを 目撃した。あいつは、確か……同じクラスの、中野真一って奴だったっけな? ルイズは中野に対して、バッと頭を下げた。 「ごめんなさい!」 何故か謝られた中野は、思いっきりショックを受けているようだった。 「そ、そんな!? ルイズさん、せめてもう少し考えてくれても……!」 「えーと、何て言うか……わたし、あなたをそういう風には見られないんです! だから…… ほんと、ごめんなさい!」 もう一度謝ったルイズが校舎の中へ逃げるように駆け込んでいく。何だ何だ? 「そんなぁ……ルイズさ~ん……」 置いていかれる形になった中野は、ガックシと肩を落としうなだれた。 呆気にとられる俺とシエスタ。これってまさか……。 「朝から賑やかなことだな」 と言いながら俺たちの元に現れたのはクリスだ。 ……あれ? クリスって……この学校にいたっけ? 昨日はいなかったような……。 まぁいいや。俺はクリスに何事だったのかを尋ねる。 「クリス」 「ああサイト、おはよう」 「おはよう。クリス、今さっきルイズと中野が何やってたのか知ってるか?」 「ああ。あの男子が、ルイズに自分とつき合ってほしいと告白をしたんだ」 告白! 俺とシエスタは目を丸くして驚いた。 「しかし、あの様子ではきっぱりと断られたみたいだな。かわいそうに」 「ナカノさん、ルイズさんは転校してきてまだ一日なのに、大胆ですねぇ……」 シエスタが呆けながらつぶやいた。確かに、大胆というか急ぎすぎって感じはするな。 「彼の気持ちがそれだけ真剣だったのだろう。真剣な気持ちに時間は関係がないということ、 師匠も言っていた」 クリスはそう語った。弓道部主将にして剣の達人でもある、女侍といってもいいクリスの師匠…… どんな人なんだろう。 ん? つい最近教えてもらったんじゃなかったっけ? でも、記憶には全然ない。また何か 変な思い違いをしてるのかな、俺……。 俺たちが話している一方で、中野は依然として肩を落としながらトボトボと校舎の中に入っていった。 その背中からは哀愁が漂っている……。確かにかわいそうだが、俺たちに出来ることなんてないよな。 せめて、早く失恋から立ち直ってくれることを祈ろう。 おっと、授業が始まる時間が近づいてきた。俺たちも教室に行こう。 教室に入り、授業が開始される寸前に、ルイズが俺に呼びかけた。 「ちょっと……」 「ん? ああ、また教科書持ってきてないのか?」 俺はまだルイズが教科書をそろえてないのかと思ったが、そうではなかった。 「違う! ……これッ!」 と言ってルイズが俺に突き出したのは、布にくるまれた箱型のものだった。 「何だこれ?」 「これは……その……あの……!」 「あの?」 「お、お、お、お弁当よ!」 弁当? どうしてそんなものを、こんな時間に出すのか。 「そうか、弁当か。随分でかいな。こんなに食ったら太るぞ」 「わ、わたしのじゃないもん!」 「じゃ、誰の?」 「あ、あ、ああああんたに決まってるでしょ!」 ……え? 「俺の? 弁当? お前が?」 「か、勘違いしないでよね! た、ただ、昨日、道でぶつかって謝りもしないままだったから……。 ほ、ほんのちょっぴりだけ悪かったなって! だから、お詫びの気持ちよ、お詫びの! ほ、ほんとに そ、それだけなんだからね!」 弁当……。女の子が俺に弁当を……。 俺は思わず教室の窓を開け放ち、青空に向かって叫んだ。 「神様ー! 生きててくれてありがとおおおおおお!! 僕は幸せで――――――す!」 「えぇッ!?」 驚くルイズ。周りの奴らもこっちに振り向いていた。 「ど、どうしたの? 平賀くん、何をやってるんですか?」 「ああ、またサイトが変なことしてるだけ。気にしたら負けよ」 目を丸くしている春奈に、モンモランシーがそう答えていた。変なことで悪かったな! この感動を表現するには、これくらいのことはしないと駄目だったんだよ! 「ちょっと! 恥ずかしいじゃない! どうして空に向かって雄叫び上げるのよ! みんな見てるわ!」 慌てふためくルイズに、俺は熱弁する。 「だって、弁当だよ? 手作り弁当だよ!?」 「そ、そうだけど! は、恥ずかしいからやめてよ!」 「お、俺、女の子に弁当もらうのなんて……。う、う、生まれて初めてで……。うっうっうっ……」 感動のあまり、俺は嗚咽を上げて泣きじゃくってしまった。 「ち、ちょっと泣かないでよ。こんなことくらいで……」 「いやいや、男子高校生三種の神器には、一生縁がないと思ってたから……」 「三種の神器?」 「女の子の手作り弁当、バレンタインデーの本命チョコ、誕生日プレゼントの手編みセーター! この三つを称して、三種の神器と呼ぶのですッ!」 誰が呼んでいるのかは俺も知らんが、ともかく俺の中ではそうなっている! 「ああッ、今日は最高の日です。お父さん、お母さん。俺を生んでくれてありがとう!」 「ふ、ふーん。よく分からないけど、そんなに喜んでもらえるならよかったわ」 俺の感動ぶりに、ルイズは満更でもなさそうに言った。 「はッ!? そ、そうか、そうだったのか!?」 「え?」 「ちょっとこっちに来てくれ、ルイズ」 「こっちにって……! もうすぐ授業始まっちゃうってば! サイト!?」 教室じゃ何なので、俺はルイズを屋上まで連れていった。 「ごめんよ、ルイズ。君の気持ちに気づかないままで……」 「さ、サイト? な、な、何真面目な顔して……」 戸惑い気味のルイズに、俺は尋ねかけた。 「お前、俺のこと好きなんだろ?」 「なッ!?」 「だから今朝、中野からの告白を断った。そうだろ?」 そうか、そういうことだったんだな……。俺のことが好きだったから、中野の気持ちには 応えられなかったんだな。 「ち、違うもんッ! あれは……!」 「そんな言い訳いらないさ。さあ、ルイズ……!」 「サイト……」 腕を広げた俺の顔を、ルイズはじっと見つめて……。 ドゴォッ! 「バカッ!」 「ぐがッ!」 お、俺の股間に膝蹴りが決まった……。 「ぐおおおおお……! お、俺の股間の夢工場が……!」 「だ、誰があんたをす、す、好きなのよ!? 全く笑えない冗談だわ!」 苦悶にあえぐ俺に、ルイズは真っ赤になりながら怒鳴りつけてきた。 「一つ教えてあげる! 冗談も過ぎると命取りになるの! 分かった!?」 「……勉強になりました……」 「全く! 馬鹿なこと言ってないで、教室に戻るわよ!」 「ふぁい……」 すっかり怒ってしまったルイズは、早足で屋上から中へ戻っていった。く、くそう…… 少し焦りすぎたか……。もっと落ち着いてから質問すればよかった……。ああ、すっげぇ 痛い思いをしてしまった……。 反省しながら俺も教室に戻ろうとした時……扉の陰に春奈とシエスタがいることに気がついた。 あんなところで、授業が始まる前に二人は何をやっているんだ? 「……見ましたか、ハルナさん?」 「ええ、しっかりと。これは……由々しき問題ですね。何とかしなければ」 ……な、何をやってたんだ? まさか……さっきの俺とルイズのやり取りをこっそり見ていたんじゃ……。 異様な威圧感のあるシエスタたちに対して、俺は知らず知らずの内に怖気づいていた。 教室に戻ると……中野がとんでもなくショックを受けたような顔をしていて、次いで俺に 一瞬恨めしい視線を向けた。 げッ……そ、そういえばルイズに振られた張本人がいるんだった……。さっきの、俺が手作り弁当を もらうところを目撃したに決まっているよな……。き、気まずい……。 俺は針のむしろにいるような気分になりながらも、その日の授業を受けたのであった。 そして夜遅くに、自室にいたところにゼロに呼びかけられた。 『才人! 外で何か異常が起きてる!』 「えッ、何だって!? 本当か!?」 『外を見てみろ!』 促されて、窓を開け放つと、俺の住む街に怪しい霧が掛かっていることに気がついた。 「霧……? 今日は晴れだぜ……?」 『ただの霧じゃないぜ。マイナスエネルギーの異様な高まりを感じる……。こいつはマイナス エネルギーの実体化だ!』 マイナスエネルギー……! 俺も話には聞いたことがある。人間の怒りとか嫉妬とか、 負の感情から生じる良くないエネルギーだとか。あのヤプールのエネルギー源でもある。 このマイナスエネルギーが高まると、怪獣が出現しやすくもなるらしい。 ということは……。俺の嫌な予感は的中してしまった。 街に漂う霧に投影されるように青い怪光が瞬くと、一体の巨大怪獣の姿が不気味に浮き上がったのだ! 「ウオオオオ……!」 「あいつは……!」 まっすぐ直立した体型にピンと立った大きな耳、手の甲は葉っぱのような形状で、腹には幾何学的な 模様が描かれている。生物というよりは、何かの彫像みたいだ。そして二つの目から、何故か涙をこぼしている。 データには、硫酸怪獣ホーとある! 「またまた怪獣か……! 行こうぜ、ゼロ!」 俺は怪獣と戦うために変身しようとしたが、それをゼロ当人に止められた。 『待て、才人! あの怪獣、まだ実体って訳じゃないようだぜ!』 「えッ? どういうことだ?」 『奴はマイナスエネルギーの結晶体の怪獣みたいだが、肉体が完全に固形化してないんだよ。 いわば中間の状態だな』 と言われても、俺にはよく分からないが……。 と、その時、怪獣ホーの姿が一瞬揺らぎ、あの中野の姿が見えたような気がした。 「今のは中野……!?」 『俺にも見えたぜ。気のせいとか幻とかなんかじゃねぇ。あの怪獣はどうやら、中野真一の 負の感情が中核になってるみたいだ!』 な、何だって!? 中野の感情は、怪獣になるまで大きかったのか……! というかそうなると、 ホーの出現の原因の半分は俺ってことになるのか!? 俺があいつを尻目に、ルイズから弁当を 受け取ったりしたから……。 さすがに中野の感情の化身を闇雲に倒すのは目覚めが悪い。ホーの核があいつっていうのなら、 中野を説得して怪獣を消し去ろう! 「中野に、怪獣を消すように説得をしなくちゃ!」 『ああ!』 俺は遮二無二部屋を飛び出し、中野の家の方へと大急ぎで走っていった。ホーにまだ暴れる 様子はないが、いつまで続くかは分からない! しかし中野の家にたどり着く前に、夜の街の中で肝心の中野を発見した。何故か、矢的先生と一緒にいる。 「真一、聞こえるか? あの怪獣の鳴き声は、お前の声だ! 夢の中でお前が作ってしまった怪獣だ! 憎しみや悲しみ、マイナスの感情を吸収して、あそこで泣いてるんだ!」 先生は中野に向けてそう告げた。先生もホーの正体を見抜き、俺よりひと足先に中野を説得して、 怪獣から解放しようとしているのか? 民間人のはずの先生が、そんなことまでするなんて……。 そんなにも生徒のことを考えているのだろうか。 話がややこしくならないように、俺は物陰にこっそりと隠れながら話の行方を見守る。 そして矢的先生は、中野に対して語り出した。 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ。でも、本当の愛ってそんなちっぽけな ものなのか? 人のお返しを期待する愛なんて、偽物じゃないかな」 ……矢的先生……。 「想う人には想われず! よくあることだぞ。先生だってそんなことあったよ」 「先生も?」 「うん。……故郷にいた頃、本当に好きな女の子がいてなぁ、その子のためなら、何でもしようと思った。 その子、楽器欲しがってたんだ。先生どうしても買ってあげたくてさ、必死になってバイトした! だけどな…… 二ヶ月目にやっと手に入れた時には、遅かったよ。その子には、新しい恋人が出来てたんだ。悲しかった……。 悔しかった。憎かったよ! だけどな、先生そのままプレゼントしたよ! その楽器が、先生の本当の心を、 鳴らしてくれると思ってな。それで終わりだよ……! 今はもう懐かしい思い出だ」 先生に、そんな苦い思い出があったんだな……。 『……何だ? どこかで聞いた話のような……』 何故かゼロが首をひねっていた。 自分の過去を話した先生は、改めて中野に呼びかける。 「真一、あの怪獣を作った醜い心が、お前の本当の気持ちなんて先生思わないぞ。今にきっと お前にも分かる!」 しかし、中野は、 「分からないよ! 俺、憎いんだ! 悔しいんだよぉーッ!!」 その絶叫に呼応するように、とうとうホーが完全に実体化して暴れ始めた! 「ウアアアアアアアア!」 地団駄を踏むように行進して、近くの建物を薙ぎ倒す! 「くそッ、結局こうなっちまうのか……!」 『仕方ねぇ! 才人、怪獣を止めるぜ!』 「ああ! デュワッ!」 俺は街を守るためにゼロアイを装着して、ウルトラマンゼロに変身した! 『やめろ、ホー!』 巨大化したゼロはすぐさまホーに飛びかかっていって、押さえつけて街の破壊を食い止めようとした。 「ウアアアアアアアア!」 けれどホーは暴れる勢いを止めようとしない。その両眼から涙がボロボロと飛び散り、 一滴がゼロの手に落ちる。 途端に、ゼロの手がジュウッと焼け焦げた! 『うおあぁッ!? あぢッ、あぢちちちッ!』 反射的にゼロは手を放してしまう。 『ゼロ、ホーの涙は硫酸なんだ!』 『くそッ、何て迷惑な奴なんだ……!』 「ウアアアアアアアア!」 ホーはわんわん泣きわめき、辺り一面に硫酸の涙をまき散らす! 何て危険な! 『や、やめろ! くそぉッ!』 阻止しようにも、涙の勢いは雨あられで、ゼロも容易に近づくことが出来ない! そして涙の一滴が、ホーを生み出した中野にまで飛んでいく! 『あッ……!』 「危ない真一ッ!」 それを助けたのは矢的先生だった。けど中野の身代わりに、先生が肩に硫酸を浴びて火傷を負ってしまう。 「先生……俺のために……!」 「そんなことより……怪獣を見ろ……! 奴は、ルイズの家の方に向かってる……!」 何だって!? 確かに、ホーはどこかに移動しようとしているように見える。まさか、 ルイズを殺そうってのか!? くそッ、それだけは絶対にさせるものか……! 「お前の潜在意識が、怪獣をルイズのところに行かせるんだ! お前は本当にルイズが憎いのか!? いいのかそれで!」 先生は大怪我を負ってもなお、中野を説得しようとしていた。矢的先生……! 「本当にそれでいいのか!? 真一ッ!」 先生の呼びかけに……中野も遂に応えた。 「消えろー! お前なんか俺の心じゃない! 消えろーッ!!」 中野は自分の憎しみを捨てた! 「ウアアアアアアアア!」 ……けど、ホーは消えない! それどころか、ますます凶暴になって暴れ狂う! 『ど、どうしてなんだ!?』 『ホーはもう、あいつの心から離れて独立した存在になっちまった! こうなったからには、 倒す以外にないぜ!』 くっそぉ……! だったら、とことんまでやってやるぜ! 俺たちは気持ちを重ねて、 ホーに立ち向かう! 『おおおおおッ!』 「ウアアアアアアアア!」 今度は硫酸にもひるまず、正面から間合いを詰めて打撃を連続で入れていく! が、ホーは ゼロの身体を掴んで軽々と投げ飛ばした! 『うッ!』 「ウアアアアアアアア!」 地面に打ち据えられたゼロに馬乗りになったホーは、両手の平で激しくゼロを叩く。 『ぐッ……! 調子に乗るなッ!』 自分の上からホーを振り払ったゼロだが、起き上がった瞬間にホーの口から放たれた火炎状の 光線をまともに食らってしまった! 『ぐああぁッ!』 痛恨のダメージを受けるゼロ! カラータイマーもピンチを知らせる! 『今の光線の威力……何てパワーだ!』 『人の心から生じたマイナスエネルギーを直接吸収して、力と憎しみが膨れ上がってるってところか……!』 マジか……! 人間の憎しみは、それだけのパワーになるってことなのか……! 同じ人間として、 恐ろしい気分になる……。 『だからこそ、負ける訳にはいかねぇぜ! とぉあッ!』 勇んで地を蹴ったゼロは、そのままウルトラゼロキックをホーにぶち込んだ! この必殺キックは さすがに効いたようで、ホーに大きな隙が出来る。 「シェエアッ!」 そこにワイドゼロショットが発射される! 直撃だ! 「ウアアアアアアアア……!」 しかし、ホーはワイドゼロショットを食らっても倒れなかった! ほ、本当にとんでもない奴だ……! 『だが、こいつで今度こそフィニッシュだぁッ!』 ゼロはひるまず、ゼロツインシュートを豪快に放った! 「ウアアアアアアアア!」 それが遂に決まり手となった。ホーの全身が赤い炎のように変わり果て、身体の内側から 輪郭の順に飛び散って完全に消え失せた。 やった……! ゼロの勝ちだ。ゼロは恐ろしい、人間の憎しみの心にも勝ったんだ……! ……今日もまた、才人は覚醒して身体を起こした。 「……本当の、愛……」 またしても夢のことはほとんどを忘れ去ってしまった才人だが……誰かが熱く語った 「本当の愛」についての内容だけは、記憶に残っていた。 そして日中、 「こらぁーサイトッ! あんたまた、わたしの見てないところでメイドとイチャイチャしてたそうね! しかも今度はクリスともだそうじゃない! この節操なしの犬! 一辺教育し直してあげようかしら!?」 ルイズはまた何か変な誤解をしたようで、怒り狂って才人に詰め寄ってきた。いつもの才人なら、 彼女の怒りから逃れようと必死に言い訳を並べていることだろう。 だが、今の才人は違った。 「なぁ、ルイズ」 「な、何よ? 今日はいやに落ち着き払って……どうしたっていうのよ? 何か変よ」 「愛しているから、愛されたい。愛されなければ腹が立つ……。本当の愛って、そんなちっぽけな もんじゃないだろう?」 困惑したルイズに、才人は夢で覚えた言葉を、すました態度で告げた。 「人のお返しを期待する愛なんて、偽物。お前もそう思わないか?」 ふッ、決まった……と言わんばかりに、格好つけた様子でルイズと目を合わせる才人。 果たして、ルイズの反応は、 「……知った風な口を利くんじゃないわよぉッ!」 余計に怒らせて、ドカーンッ! と爆発をお見舞いされた。 「ぎゃ―――――――――ッ!!」 「ふんッ! どこでそんな言葉覚えてきたんだか……!」 ツカツカとその場を離れていくルイズ。後には、黒焦げになった才人がバッタリと倒れ込んだ 姿だけが残された。 「ど……どうしてこうなるんだ……」 ピクピク痙攣した才人は、そうとだけ言い残して力尽きた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9427.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十五話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その3)」 地獄星人スーパーヒッポリト星人 剛力怪獣キングシルバゴン 超力怪獣キングゴルドラス 風ノ魔王獣マガバッサー 土ノ魔王獣マガグランドキング 水ノ魔王獣マガジャッパ 火ノ魔王獣マガパンドン 究極合体怪獣ギガキマイラ 巨大暗黒卿巨大影法師 登場 最後の本の世界への冒険に挑む才人とゼロ。最後の世界は、メビウスが不思議な赤い靴の少女に 導かれて入り込んだもう一つの地球の世界。ここで才人たちはメビウスの代わりに、侵略者に立ち向かう 七人の勇者を探すことに。しかしまだ一人も見つけられていない内に、怪獣キングパンドンが 襲撃してきた! それはゼロが倒したのだが、直後に怪獣を操るスーパーヒッポリト星人が出現し、 キングシルバゴンとキングゴルドラス、更には四体の魔王獣をけしかけてくる。さしものゼロも この急襲には耐え切れず、とうとう倒れてしまった。どうにかダイゴに救われた才人だが、重傷にも 関わらず再度変身しようとする。だがその時、暴れる怪獣たちの前にウルトラマンティガが立ち上がった。 勇者として目覚めたダイゴが変身したのだ! 「ヂャッ!」 我が物顔に横浜の街を蹂躙する邪悪なヒッポリト星人率いる怪獣軍団の前に敢然と立ち はだかったのは、ダイゴの変身したウルトラマンティガ。その勇姿を目の当たりにした 人々は、それまでの疲弊と絶望の淵にあった表情が一変して、希望溢れるものに変わった。 「ウルトラマンだ……!」 「ウルトラマンが来てくれた……!」 「頑張れ! ウルトラマーン!!」 街の至るところでウルトラマンティガを応援する声が巻き起こる。そして才人も、感動を 顔に浮かべてティガを見つめていた。 「ダイゴさん……変身できたのか……!」 『ああ……! この物語も、ハッピーエンドの糸口が見えてきたな!』 ヒッポリト星人はティガに対してキングシルバゴン、キングゴルドラスをけしかける。 しかしティガは空高く飛び上がって二体の突進をかわすと、空に輝く月をバックにフライング パンチをシルバゴンに決めた。 「グルウウウウゥゥゥゥ!」 ティガの全身の体重と飛行の勢いを乗せた拳にシルバゴンは大きく吹っ飛ばされた。ゴルドラスは ティガに背後から襲いかかるが、すかさず振り返ったティガはヒラリと身を翻して回避しながら ゴルドラスのうなじにカウンターチョップをお見舞いする。 「ギュルウウウウゥゥゥゥ!」 魔王獣たちも続いてティガに押し寄せていくが、ティガはその間を縫うように駆け抜けながら 互角以上の立ち回りを見せつけた。 「いいぞ! ティガーッ!」 才人は興奮してティガの奮闘ぶりに歓声を上げた。……しかし、所詮は多勢に無勢。やはり 一対七は限界があり、ヒッポリト星人の放った光線が直撃して勢いが止まってしまう。 「ウワァッ!」 「あぁッ! ティガがッ!」 ティガの攻勢が途絶えた隙を突き、怪獣たちは彼を袋叩きにする。挙句にティガはヒッポリト カプセルに閉じ込められてしまった! 「まずい!」 ヒッポリトカプセルが中からは破れない、必殺の兵器であることを才人たちは身を持って 体験している。才人はティガを救おうとゼロアイを手に握った。 「ゼロ、行こう! ティガを助けるんだ!」 『よぉしッ!』 今度はゼロも止めなかった。 が、しかし、才人がゼロアイを身につけるより早く、夜の横浜に更なる二つの輝きが生じる。 「! あれは、まさか……!」 『二人目と三人目の勇者か……!』 ティガに続くように街の真ん中に立った銀、赤、青の巨人はウルトラマンダイナ! そして 土砂を巻き上げながら着地した赤と銀の巨人はウルトラマンガイアだ! 「ジュワッ!」 「デュワッ!」 並び立ったダイナとガイアは同時に邪悪な力を消し去る光線、ウルトラパリフィーを放って ヒッポリトカプセルを破壊し、ティガを解放した。助け出されたティガの元へダイナ、ガイアが 駆け寄る。 三人のウルトラマンが並び立ち、ヒッポリト星人の軍勢に勇ましく立ち向かっていく! 「ダイナとガイアが、ティガのために立ち上がってくれたのか……!」 感服で若干呆けながら、三人の健闘を見つめる才人。 ティガはヒッポリト星人、ダイナはシルバゴン、ガイアはゴルドラスに飛び掛かっていく。 一方で四体の魔王獣は卑怯にも三人を背後から狙い撃ちにしようとするが、その前には四つの 光が立ちはだかった。 「ヘアッ!」 「デュワッ!」 「ジュワッ!」 「トアァーッ!」 才人もゼロもよく知るウルトラ兄弟の次男から五男までの戦士、ウルトラマン、ウルトラセブン、 ウルトラマンジャック、そしてウルトラマンエース! この世界のハヤタたちが変身したものに違いない。 「七人のウルトラマンが出そろった!」 『勇者全員が覚醒したってことだな……!』 ウルトラマンたちはそれぞれマガグランドキング、マガパンドン、マガジャッパ、マガバッサーに ぶつかっていき、相手をする。これで頭数はそろい、各一対一の形式となった。 七人の勇者が邪悪の軍勢相手に奮闘している様をながめ、才人はポツリとゼロに話しかける。 「なぁ、ゼロ……俺はさっきまで、俺たちが頑張らないとこの世界は救われないって、そう思ってた。 俺たちが物語を導いていくんだって」 『ん?』 「でも違ったな。ダイゴさんは、俺たちが倒れてる間に自分の力で変身することが出来た。 他の人たちも……。思えば、これまでの物語の主人公たちも、みんな強い光の意志を持ってた。 俺たちはそれを後押ししてただけだったな」 と語った才人は、次の言葉で締めくくる。 「たとえ本の中の世界でも、人は自分の力で光になれるんだな」 『ああ、違いねぇな……』 才人とゼロが語り合っている間に、ウルトラ戦士対怪獣軍団の決着が次々ついていこうと していた。 「ヘアッ!」 「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」 空を飛んで上空から竜巻を起こそうとするマガバッサーに、エースがウルトラスラッシュを 投げつけた。光輪は見事マガバッサーの片側の翼を断ち切り、バランスを崩したマガバッサーは 空から転落。 「デッ!」 エースは落下してきたマガバッサーに照準を合わせ、虹色のタイマーショットを発射。 その一撃でマガバッサーを粉砕した。 「シェアッ!」 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」 ウルトラマンは非常に強固な装甲を持つマガグランドキングに、両手の平から渦巻き状の 光線を浴びせた。するとマガグランドキングの動きが止まり、ウルトラマンの指の動きに 合わせてその巨体が宙に浮かび上がる。これぞウルトラマンのとっておきの切り札、ウルトラ 念力の極み、ウルトラサイコキネシスだ! 「ヘェアッ!」 ウルトラマンがマガグランドキングをはるか遠くまで飛ばすと、その先で豪快な爆発が発生。 マガグランドキングは撃破されたのだった。 「ヘアァッ!」 ジャックは左手首のウルトラブレスレットに手を掛け、ウルトラスパークに変えて投擲。 空を切り裂く刃はマガジャッパのラッパ状の鼻も切り落とす。 「グワアアアァァァァァ!? ジャパッパッ!」 「ヘッ!」 鼻と悪臭の元を失って大慌てするマガジャッパに、ジャックはウルトラショットを発射。 一直線に飛んでいく光線はマガジャッパに命中し、たちまち爆散させた。 「ジュワーッ!」 「ガガァッ! ガガァッ!」 セブンはマガパンドンの火球の嵐を、ウルトラVバリヤーで凌ぐと、手裏剣光線で連射し返して マガパンドンを大きくひるませる。 「ジュワッ!」 その隙にセブンはアイスラッガーを投擲して、マガパンドンの双頭を綺麗に切断した。 魔王獣は元祖ウルトラ兄弟に全て倒された。そしれティガたちの方も、いよいよ怪獣たちとの 決着をつけようとしている。 「ダァーッ!」 ダイナのソルジェント光線がキングシルバゴンに炸裂! オレンジ色の光輪が広がり、 シルバゴンはその場に倒れて爆発した。 「アアアアア……デヤァーッ!」 ガイアは頭部から光のムチ、フォトンエッジを発してキングゴルドラスに叩き込む。光子が ゴルドラスに纏わりついて全身を切り裂き、ゴルドラスもたちまち爆散した。 最後に残されたスーパーヒッポリト星人は口吻から火炎弾を発射して悪あがきするが、 ダイナとガイアにはね返されてよろめいたところに、ティガが空中で両の腕を横に開いて 必殺のゼペリオン光線を繰り出した! 「テヤァッ!」 『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!!』 それが決まり手となり、ヒッポリト星人もまた激しいスパークとともに大爆発を起こして消滅。 怪獣軍団はウルトラ戦士たちの活躍により撃滅されたのであった! 「やったッ!」 『ああ。……だが、戦いはこれで終わりじゃないはずだぜ。まだ真の黒幕が残ってるはずだ……!』 ゼロがメビウスの話を思い出して、深刻そうにつぶやく。 果たして、ウルトラ戦士の勝利で喜びに沸く人々に水を差すように、どこからともなく おどろおどろしい声が響いてきた。 『恐れよ……恐れよ……』 それとともに街の至るところから幽鬼のようなエネルギー体が無数に噴出して空を漂い、 更に倒したキングゴルドラス、キングシルバゴン、キングパンドン、キングゲスラ、 スーパーヒッポリト星人の霊も出現して空の一点に集結。全てのエネルギー体も取り込んで、 巨大な黒い靄に変わる。 その靄の中から……ウルトラ戦士の何十倍もある超巨体の怪物が現れた! 首はキング シルバゴンとキングゴルドラスの双頭、尾はキングパンドンの首、腹部はキングゲスラの 頭部、胴体はスーパーヒッポリト星人の顔面で出来上がっている、自然の生物ではあり得ない ような異形ぶりだ! これぞ闇の力が怪獣軍団の怨念を利用して生み出した究極合体怪獣ギガキマイラである! 「グルウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 空に陣取るギガキマイラは身体に生えた四本の触手から、一発一発がウルトラ戦士並みの サイズの光弾を雨あられのようにティガたち七人に向けて撃ち始めた。 「ウワァァァーッ!」 ギガキマイラの怒濤の猛攻に、七人は纏めて苦しめられる。これを見て、才人は改めて ゼロアイを握り締めた。 「遅くなったが、いよいよ俺たちの出番だ!」 『おうよ! 八人目の勇者の出陣だな!』 勇みながら、才人はこの世界での三度目の変身を行う。 「デュワッ!」 瞬時に変身を遂げたウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーを飛ばしてギガキマイラの光弾を 切り裂いて七人を助ける。ティガがゼロへ顔を向けた。 『ウルトラマンゼロ!』 『待たせたな、ダイゴ! 一緒にあのデカブツをぶっ飛ばそうぜ!』 『ああ、もちろんだ! これで僕たちは、超ウルトラ8兄弟だ!!』 ギガキマイラはなおも稲妻を放って超ウルトラ8兄弟を丸ごと呑み込むような大爆炎を 起こしたが、ゼロたちは炎を突き抜けて飛び出し、ギガキマイラへとまっすぐに接近していく! 「行けぇー!」 「頑張れぇー!」 巨大な敵を相手に、それでも勇気が衰えることなく立ち向かっていくウルトラ戦士の飛翔 する様を、地上の大勢の人々が声の出る限り応援している。 「頑張ってぇーッ! ウルトラマン!」 その中には、北斗の娘の役に当てはめられているルイズの姿もあった。 『ルイズ……!』 才人はルイズの姿を認めると更に勇気が湧き上がり、ゼロに力を与えるのだ。 「セアッ!」 「デヤァッ!」 八人のウルトラ戦士はそれぞれの光線で牽制しながらギガキマイラに肉薄。ゼロ、ティガ、 ダイナ、ガイアが肉弾で注意を引きつけている間に、マン、セブン、ジャック、エースが 各所に攻撃を加える。 「シェアッ!」 ウルトラマンは大口を開けたキングゲスラの首に、スペシウム光線を放ちながら自ら飛び込む。 ゲスラの口が閉ざされるが、スペシウム光線の熱量に口内を焼かれてすぐに吐き出した。 「テェェーイッ!」 エースはキングゴルドラスの首が吐く稲妻をかわすとバーチカルギロチンを飛ばし、その角を ばっさりと切断した。 「テアァッ!」 ジャックはキングシルバゴンの首の火炎弾を宙返りでかわしつつ、ブレスレットチョップで 角を真っ二つにする。 「ジュワッ!」 キングパンドンの首にエメリウム光線を浴びせたセブンに火炎弾が降り注ぐが、海面すれすれを 飛ぶセブンには一発も命中しなかった。 『へへッ! 全身頭なのに、おつむが足りてねぇんじゃねぇか!?』 ウルトラ戦士のチームワークに翻弄されるギガキマイラを高々と挑発するゼロ。彼を中心に、 八人が空中で集結する。 「グルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!」 するとギガキマイラは業を煮やしたかのように、全身のエネルギーを一点に集めて極太の 破壊光線を発射し出した! 光線は莫大な熱によって海をドロドロに炎上させ、横浜ベイ ブリッジを一瞬にして両断させながらゼロたちに迫っていく。 「シェアッ!!」 しかしそんなものを悠長に待っている八人ではなかった。全員が各光線を同時に発射する 合体技、スペリオルストライクでギガキマイラの胸部を撃ち抜き、破壊光線を途切れさせる。 「デヤァッ!!」 煮えたぎった海面には全員の力を合わせた再生光線エクセレント・リフレクションを当て、 バリアで包んで修復させる。 その隙にギガキマイラが再度破壊光線を放ってきた。今度はまっすぐに飛んでくるが、 すかさずウルトラグランドウォールを展開することで光線をそのままギガキマイラにはね返す。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」 己の肉体がえぐれてしまったギガキマイラは、勝ち目なしと見たか宇宙空間へ向けて逃走を 開始した。だがそれを許すようなゼロたちではない。 『逃がすかよぉッ!』 その後を追いかけて急上昇していく八人。大気圏を突き抜けたところでギガキマイラの 背中が見えた。 「テヤーッ!」 「シェアッ!」 セブンとゼロはそれぞれのスラッガーを投擲。それらに八人が光線を当てると、エネルギーを 吸収したスラッガーはミラクルゼロスラッガー以上の数に分裂。イリュージョニックスラッガーと なってギガキマイラの全身をズタズタに切り裂き、足止めをした。 「ジェアッ!!」 とうとう追いついたウルトラ戦士たちは同時に必殺光線を発射し、光線同士を重ね合わせる。 そうすることで何十倍もの威力と化したウルトラスペリオルが、ギガキマイラに突き刺さる! 「グギャアアアアアアァァァァァァァァァ――――――――――――――ッッ!!」 ギガキマイラが耐えられるはずもなく、跡形もなく炸裂。超巨体が余すところなく宇宙の 藻屑となったのであった。 見事ギガキマイラを討ち取った勇者たちは、人々の大歓声に迎えられながら横浜の空に 帰ってくる。 『やりました……! この世界を守りましたよ!』 『……いや、まだ敵さんはおしまいじゃないみたいだぜ』 喜ぶティガだが、ゼロは邪な気配が途絶えてないのを感じて警告した。実際に、彼らの 前におぼろな姿の実体を持たない怪人の巨体が浮かび上がった。 それこそが人間の負の感情が形となって生じた邪悪の存在であり、真に怪獣軍団を操っていた 黒幕である、黒い影法師。それら全てが融合した巨大影法師であった! 『我らは消えはせぬ……。我らは何度でも強い怪獣を呼び寄せ、人の心を絶望の闇に包み込む……。 全ての平行世界から、ウルトラマンを消し去ってくれる……!!』 それが影法師の目的であった。心の闇から生まれた影法師は、闇を広げることだけが存在の 全てなのだ。 しかし、そんなことを栄光の超ウルトラ8兄弟が許すはずがない! 『無駄だ! 絶望の中でも、人の心から、光が消え去ることはないッ!』 見事に言い切ったティガの身体が黄金に光り輝き、グリッターバージョンとなってゼペリオン 光線を発射した! 他のウルトラ戦士もグリッターバージョンとなって、スペシウム光線、 ワイドショット、スペシウム光線、メタリウム光線、ソルジェント光線、クァンタム ストリームを撃つ! 『俺も行くぜぇッ! はぁぁッ!』 ゼロもまたグリッターバージョンとなり、ワイドゼロショットを繰り出した! 八人の 必殺光線は一つに重なり合うと、集束した光のほとばしり、スペリオルマイスフラッシャーと なって巨大影法師の闇を照らしていく! 『わ、我らはぁ……!!』 巨大影法師は光の中に呑まれて消えていき、闇の力も完全に浄化されていった。 地上に喜びと笑顔が戻り、そして夜が明けて朝を迎える。昇る朝日を見つめながら、ティガが ゼロに呼びかける。 『ウルトラマンゼロ、本当にありがとう! この世界が救われたのは、君たちのお陰だ……!』 『何を言うんだ。お前はお前自身の力で自分を、世界を救ったんだぜ』 『いや……君たちの後押しがあったからさ。感謝してもし切れない……。この恩は必ず返す からね! 必ずだよ!』 そのティガの言葉を最後に、ゼロの視界が朝の日差しとともに真っ白になっていく……。 遂に六冊、全ての本を完結させることに成功した。才人はその足でルイズの元まで駆け込む。 「ルイズッ!」 ルイズのベッドの周りには、タバサ、シエスタ、シルフィードらが既に集まっていた。 皆固唾を呑んで、ルイズの様子を見守っている。 ルイズは今のところ、ぼんやりとしているだけで、傍目からは変化が起きたかどうかは 分からない。 「……どうだ、ルイズ? 何か思い出せることはあるか?」 恐る恐る尋ねかける才人。するとルイズが、ぽつりとつぶやいた。 「……わたしは、ルイズ……。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……!」 「!!」 今の言葉に、才人たちは一気に喜色満面となった。ルイズのフルネームは、ここに来てから 誰も口にしていないからだ。それをルイズがスラスラと唱えたということは……。 「そうよ! わたしはヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズだわ!」 「ミス・ヴァリエール! 記憶が戻ったのですね!」 感極まってルイズに抱きつくシエスタ。ルイズは驚きながらも苦笑を浮かべる。 「ちょっとやめてよシエスタ。そう、あなたはシエスタよ。学院のメイドの」 「ルイズ……記憶が戻った」 「タバサ! 学院でのクラスメイト!」 「よかったのねー! 色々心配してたけど、ちゃんと元に戻ったのね!」 「パムー!」 「シルフィード、ハネジローも!」 仲間の名前を次々言い当てるルイズの様子に、才人は深く深く安堵した。あれほど怪しい 状況の中にあって、本当にルイズの記憶が戻ったというのはいささか拍子抜けでもあるが、 ルイズが治ったならそれに越したことはない。 「よかったな、ルイズ。これで学院に帰れるな!」 満面の笑顔で呼びかける才人。 ……だが、彼に顔を向けたルイズが、途端に固まってしまった。 「ん? どうしたんだ、その顔」 才人たちが呆気にとられると……ルイズは、信じられないことを口にした。 「……あなたは、誰?」 「………………え?」 「あなたの名前が……出てこない。誰だったのか……全然思い出せないッ!」 そのルイズの言葉に、シエスタたちは声にならないほどのショックを受けた。 「う、嘘ですよね、ミス・ヴァリエール!? よりによってサイトさんのことが思い出せない なんて……あなたに限ってそんなことあるはずがないです!」 「明らかにおかしい……不自然……」 「変な冗談はよすのね、桃髪娘! 全っ然笑えないのね!」 シルフィードは思わず怒鳴りつけたが、ルイズ自身わなわなと震えていた。 「本当なの……! 本当に、何一つ思い出せないの……! あるはずの思い出が……わたしの 中にない……!」 ルイズが自分だけを思い出せないことに、才人はどんな反応をしたらいいのかさえ分からずに ただ立ち尽くしていた。 「……」 混乱に陥るゲストルームの様子を、扉の陰からリーヴルがじっと観察していた。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3272.html
前ページゼロの使い魔-闇の七人 ――夜。 学院の庭園の外れ。 およそ生徒達も近寄らない、忘れ去られた東屋に集う影があった。 一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人……そして、最後の一人。 この魔法学院に暮らす、異世界人達。 皆が皆、音も、気配すらも感じさせずに其処にいる。 ――およそ尋常な者で無いことは、見ている者がいれば、容易に理解できたろう。 「……で、どうすんだよ」 誰よりも先に口を開いたのはムラージであった。 否、そもそも、会合を開こうと言い出したのからして彼である。 平素の――あまりにも毒舌な言動からは想像もつかない行動。 「珍しいですね、ムラージ。あなたが肩入れするだなんて」 オチーヴァの言葉も、猫人はフンと鼻を鳴らして一蹴する。 「当たり前だ。シェスタは、俺たちに随分と良くしてくれたからな」 その言葉に一同が頷き、或いは沈黙を持ってして同意した。 誰にでも優しさをもって接する彼女。 殺伐とした世界で生き、誰からも排斥された一同に取っても、 その優しさは心のうちへと染み入るモノがあった。 別段、彼女が行ったことは大したことではない。 例えば不案内な場所で道に迷ったときに案内してくれたり、 彼らにとってもっとも重要な、しかし細々とした情報を教えてくれたり、 彼らの食事の支度を、それとなく厨房に頼んでくれたり、 ちょっとした量の仕事を手伝ってくれたこともあった。 繰り返して言うが、シェスタという少女の行いは、大したものではない。 誰にでもできる、本当に、本当に些細な優しさ、善行だ。 ――だが、それですら彼ら「闇の一党」にとっては素晴らしいものに思えた。 「なら、俺たちは、あの娘を救い出してやらなきゃならねぇ」 誰が知ろう。 母親からも排斥され、暴力の道しか選べなかったオーグの哀しみを。 同胞からも疎まれ、最底辺で這い蹲って生きてきたエルフの苦しみを。 誰も信じることができず、嘘と裏切りと偽りを生きる獅子人の孤独を。 囚われ人となり、来る日も来る日も監視たちに苛まれた女の痛みを。 日の光に拒まれ、血を啜りながら生きざるをえなかった男の永遠を。 親から捨てられ、一生涯を闇の中で過ごさねばならない娘の静寂を。 姉と共に放逐され、唯一無二の親友すら手にかけた青年の苦悩を。 そしてオブリビオンの世界へ身を投じてしまった、蜥蜴人の絶望を。 この世界は恐ろしいほどに光に満ちている。 彼らが永遠に手放してしまった、穏やかな世界、日常。 或いは。 その象徴こそがシェスタという娘の。 ほんの些細な、しかし価値ある優しさであったのかもしれない。 ならば、それを護るのに何の躊躇がいるだろう。 迷うことも、悩むこともない。 皆の意見は一つだった。 「駄目だ」 だが、と鋭い一言が割り込んだ。 ――リザードだった。 「この小汚い卵食い野郎め……ッ!」 声の主に向けて、ムラージの殺意が篭められた視線が突き刺さる。 だが、彼は小さく首を横に振るだけ。 無理もない。元よりこの男、他者の評価になぞ頓着しないのだから。 「夜母との契約ではない」 寡黙な蜥蜴人、リザードはボソボソと呟くように言葉をつむぐ。 だが、その囁くような声は、はっきりと皆の耳に届くのだ。 ――人を惹きつける人間、もとい蜥蜴であった。 「だったらッ! 夜母の誓いとは無関係に――」 「……我らの力は夜母のもの。自らの意思で振るってはならん」 「…………なら見捨てるってのか、あの娘を!」 ダン、と拳を柱へと叩きつけるムラージ。 だがリザードは怯えた素振りを見せない。 否、そもそも闇の一党には脅迫なぞ通じないのだ。 「……小難しい理屈はオレにはわからないんだが。 誰かが望めば良いんじゃないかね。オレはそう思うぞ」 口を挟んだのはゴグロンだった。 巨漢のオーグが、ぽりぽりと頭を掻きながら告げる。 つまりは誰かが――夜母の助力を望めば良い。求めれば良い。 さすれば我ら闇の一党は動くことができるのだ、と。 我が意を得たり、とリザードが頷いた。 「我らは肉斬り包丁であって、それ以上でも以下でもない。 自らの意思で力を行使すれば、その時点で我らは闇の一党ではなくなる」 「………………なら、誰が望むってんだ」 「其処のお嬢さん方、なんてのはどうだろうね?」 テイチーヴァが含み笑いと共に口にした言葉に、暗闇の奥で誰かが驚く気配があった。 くすくすと言う笑い声。 気付いていたのはテレンドルも、マリーも同様だったらしい。 「いらっしゃいなお嬢さんがた。わたし達は別にとって食べたりしないわよ?」 「そうそう、ゴグロンじゃあるまいしね」 エルフが睨むのにあわせ、マリーはごめんごめんと笑っていた。 やれやれと皆が嘆息する。 この美しいエルフが、どうしてオーグに恋なぞしたのか。 彼らにとっても未だに解明されていない謎の一つだ。 ゴグロンは好んで語ろうとしないし、テレンドルは秘密だと笑って誤魔化している。 恐らくは、一生解明されることはあるまい。 招きに応じて現れた姿は二人。 この謎めいた会合にすら頓着していない青髪の娘。 そして、どこか怯えながら――否、興味津々といった様子の赤髪の娘。 タバサと、その親友を公言するキュルケ。二人の少女であった。 「つけられましたね、リザード」 「いや“尾行させた”のだろうよ、オチーヴァ。何にせよ……歓迎された行為ではないがね。 部外者が会合を訪れるなぞ、私が関わってから200年来で初めての出来事だ」 叱責を篭めて、或いは何処か楽しげに語る蜥蜴娘と、吸血鬼ヴィンセンテ。 二人に対してリザードは一つ頷き、赦されよ、と呟いた。 「まったく、ダーリンがこそこそ出かけて行くんだもの。 何かと思っちゃったじゃない」 「………聞かせてもらった」 まったく悪びれない二人の様子に、一党も苦笑しか浮かばない。 だが、其処には同時に喜びがあった。 これで、もう何を躊躇う必要も無くなるのだから。 「ならば望め」 誰かが言った。 或いはそれは、誰でもなかったのかもしれない。 闇の奥から、その声は聞こえてきたのだから。 「何を?」 タバサが。 キュルケが問うた。 「死を」 「血を」 「暴力を」 「モット伯の血を」 「彼の死を」 「契約を」 「夜の誓約を」 響き渡る声。 「……望めば、我らが救い出す」 最後の声は、リザードだった。 謎めいた蜥蜴男。だが、信頼に足る男。 悩む必要は無い。 「望むわ」 タバサの答えを受け、オチーヴァが重々しく頷いた。 「なら、我ら『闇の一党』が、彼に死を運びましょう」 前ページゼロの使い魔-闇の七人
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9464.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十三話「ド・オルニエールへようこそ」 催眠怪獣バオーン 登場 ロマリアとガリアの間に開かれた戦端は、ジョゼフの死亡によって終焉を迎えた。トリステインは 両者の戦争の間、ガリアの牙がこちらに向いたらと震え上がっていたので、戦争の終結の報が届いた 時には誰もが胸をなで下ろしたものだった。そして戦争の勝利及び早期終結に貢献したオンディーヌと ルイズ、ティファニアにはその恩賞が与えられた。いや別に才人以外のオンディーヌがこれと言って 何かした訳ではないのだが、対外的な理由によって隊長のギーシュはシュヴァリエに叙され、隊員たち には一人ずつに勲章が与えられたのであった。 そして戦勝を祝う魔法学院の宴の中で、才人とルイズは二人でバルコニーに出ていた。 才人はホールから聞こえてくるオンディーヌの起こす喧騒に耳を傾けながらため息を吐く。 「全く……みんなのんきなもんだぜ」 「いいじゃない。ジョゼフ王は死んで、その裏の黒幕もやっつけた。当分は平和になるわ。 少しぐらいの羽目外しは大目に見てあげなさいよ」 「けどな……タバサがここからいなくなっちゃったってのに」 ロマリアのたくらみを見抜き、その罠を回避したタバサであったが――結局、ガリアの 王位を継承すること自体は受け入れた。何故なら、継承権を失ったジョゼフの子を除いた ガリア王家の生き残りは彼女とその母親の二人のみ。タバサの母は長きに亘る心神喪失の 影響でとても戦後の混乱を収める体力はなく、自分が王座に就かなければガリアは指導者 不在になってしまう。そうなったらロマリアの格好の的だ。聖戦のために陰謀を張り巡らす ロマリアを牽制する意味で、タバサはシャルロット女王として即位。ロマリアからの干渉を 遮断する方向に政治の舵を切っているところだという。 「まぁ確かに、キュルケじゃないけれど、あの子がいなかったらいないで寂しいわよね」 「それだけじゃない。ロマリアからしたら、タバサを新しい女王にするということ自体は 叶ってるんだ。当然そこで終わりじゃないだろう、タバサを利用する何かしらの算段が あるはず……。そこが俺、心配でさ……」 今は遠く離れたタバサの身を案ずる才人に、ルイズが気を紛らわさせるように説く。 「大丈夫よ。聖地を取り返すためには四の四が必要なはず。でも、ガリアの担い手のジョゼフ 王は死んじゃった。続けようがないじゃない。ロマリアの陰謀もこれでストップよ」 「でもな……。あいつらは、それでも遂行できる自信があると思うんだ」 才人はずっと気になっていたことをルイズに言った。 「だって……絶対ジョゼフは味方にならない。あいつらそう考えて行動してたんじゃないか。 つまり、別にそろわなくても出来るんじゃないか?」 不安に思う才人だったが、ルイズは次のように指摘する。 「わたしたちが、ガリアの担い手はジョゼフ王だって知ったのは、最後の最後じゃない」 「あ」 得心する才人。自分たちが、ジョゼフが虚無の担い手だという情報を最初に入手したのは、 カステルモールの手紙から。その内容を知らないロマリアは、事前にジョゼフが担い手だと 知るすべなどなかったはずだ。 「ロマリアもジョゼフ王じゃない、別の担い手がいると思ってた。ジョゼフ王を打倒した後、 そいつを味方にするつもりだったんでしょ。でもガリアの担い手はジョゼフ王でした。教皇 聖下の計画は頓挫したのよ。四の四がそろわないと、真の虚無とやらは目覚めないんだから。 だからもう案ずる必要なんてないのよ」 「なるほど……」 才人はルイズの唱える理屈に納得したものの……。 『いや、俺はそうは思わねぇな』 ゼロは異議を挟んだ。 「え? 何でよ。さっきも言ったけど、ロマリアはジョゼフ王が担い手だと事前に知ることは 出来なかったはずなのよ」 『いいや。確信はなくとも、予測は立てられたはずだぜ。虚無の担い手は、覚醒する前は 傍目から見りゃメイジの家系なのに魔法の才能が全くないって風に映るんだろ?』 ゼロの言う通り。ルイズもかつては、どの系統の魔法も扱えない劣等生のレッテルを貼られて いたものだ。 『聞いた話じゃ、ジョゼフもその条件には当てはまってた。あいつが担い手だと、十分に 予測はつけられたはずだ。それでも敵対したってことは、才人の言う通り、何か他のアテが あるんだろうよ。それに俺の経験的に、悪いこと考えてる奴は真の狙いや思惑を隠してる もんだ。予断は出来ないんじゃねぇかって思うぜ』 才人は、今度はゼロの論理に感心させられる。しかしルイズはまたまた反論。 「でも、聖下もロマリア軍も既にガリアから撤退したのよ。タバサに何かするつもりなら、 理由をつけてガリアに留まろうとするんじゃないかしら?」 『何を狙ってるのかまでは分からねぇさ。ただ、まだしばらくは警戒を続けとくべきだろう。 ミラーナイトにも見張っててもらおうか』 まだロマリアの陰謀が終わっていない可能性を示され、才人とルイズの不安が大きくなった。 才人は一つため息を吐く。 「あのタバサのことだから、そう簡単には大事にはならないとは思うけど……一つの大きな 戦いが終わったのに不安要素が残るってのは、気分がいいもんじゃないんだな……」 短い時間でもいいから、心の底から安堵したいもんだ……と顔をしかめる才人。ガリアの 件が落着してすぐに、今度はロマリアを敵に回さなければならないと考えたら、さすがに嫌に なってくる。こんな戦いの連続に、いつ終わりがやって来るのだろうか……。 (……戦いの、終わりか……) 才人はふと、その時を想像して複雑な気持ちを抱いた。このハルケギニアでの全ての戦いを 終えて、真の平和が戻った時は……自分がゼロと一体化している理由はなくなり、地球に帰る こととなる。いつになるかは全然分からないが……その時はハルケギニアで出会った仲間たちと、 そしてルイズと、どのような別れを迎えるのだろうか。そして、その先の未来はどうなるのか……。 ここで、主を失ったミョズニトニルンのことを思い返した。 ミョズニトニルンは才人のパラライザーの影響で、ジョゼフが才人に敗れ、死神に殺害 されるまでの出来事を、見ていることしか出来なかった。フリゲート艦からはロマリア騎士 たちに助けられ、麻痺が抜けたのは、全てが終わってからであった。 ミョズニトニルンはその後、魂どころか何もかもが身体から抜け落ちてしまったかのように、 虚ろな状態に陥っていた。その様子は、ジョゼフとともに彼女に苦しめられた才人たちが憐れんで しまうほどであった。 『ミョズニトニルン……あなた、もしかしてジョゼフ王のことを……』 ルイズが女として何かに気がついて問いかけようとしたが、ミョズニトニルンはそれを さえぎって言った。 『たとえあのお方が、私のことを何とも思って下さらなかったとしても、私にとってあのお方は 全てだった……。それを失った今、私にこの土地での居場所はないわ……』 ミョズニトニルンはふらふらとどこかへ歩み去っていく。主の死により虚無の使い魔でなくなり、 元々生活していた土地に帰るつもりなのであろうか。 才人たちはそれを止めなかった。止めたところで、どうなるというのか。 『……一つだけ教えてくれ! 本名は何て言うんだ!?』 それだけ聞くと、彼女はこう答えた。 『もう私に、名前なんてない。愛した主人の死に何も出来なかった、ただの一人のちっぽけな女。 それだけよ……』 そうして本当の名前すらも分からない、哀れな女はどこかへと消えていった。ロマリアも、 使い魔のルーンを失った彼女にはもう興味も価値も見出さないのか、なすがままにした。 かつてミョズニトニルンだった女が、無事に故郷へ帰れるのか、それとも途中で どこかで斃れてしまうのか。それはもう彼女自身にしか分からないことであろう。 ――たとえ世界にどんなことが起ころうとも、時間は変わりなく流れ続ける。才人たちも 意識を切り換えて、変わっていく日常の中に戻っていった。 ルイズは今年で最高学年である。魔法学院に在籍している日数も少なくなってきた。そこで 少し気は早いが、卒業後に生活する屋敷を探すこととなった。卒業してからは寮塔からそこを ウルティメイトフォースゼロの活動の拠点とするつもりだ。 が、しかし……。 「結局、どこも見つからなかったって訳ぇ?」 『魅惑の妖精』亭の店長スカロンが、屋敷探し後に憮然とした調子で立ち寄ったルイズたちの 報告に呆れ返った。 ルイズと才人が暮らす屋敷は、一件も見つけることが出来ず仕舞いだった。何故なら、 シエスタが同行していたからである。シエスタは才人つきのメイドであり、新しい屋敷を 探すなら当然彼女の意見も重要となるのだが、シエスタが何か言う度にルイズが感情的に 強固に反対するのだから、それは屋敷が決まらないのも当然であった。 ルイズの本心としては、才人を男として狙うシエスタを、というかメイドそのものを屋敷に 入れたくないのである。しかしそれは全く現実的ではない。貴族として使用人を雇わない訳には いかないし、男には任せられない仕事もある。メイドは必要なのだし、今更シエスタを個人的な 理由で解雇する訳にはいかない。でもやはりシエスタを近辺に置いといたら安心が……と、 ルイズは矛盾に陥っていた。 そこにスカロンが解決策を提示した。 「サイトくんはお屋敷を買う。ルイズちゃんと暮らす。シエちゃんも雇う。これで万事解決」 「どうしてそうなるのよ!」 顔を輝かせるシエスタとは反対に怒鳴るルイズを、スカロンは極めて冷静に諭す。 「あのね、ルイズちゃん。サイトくんは今や平民の英雄なのよ」 「え?」 「あれをご覧なさいな」 スカロンが指差した食堂の壁に目を向けるルイズたち。そこには歌劇の公演ポスターが 貼られていた。 トリスタニアは何度もウルティメイトフォースゼロに救われているので、市民からのゼロたち への人気は非常に高い。劇場でも、ゼロたちの演劇が毎日のように公演されているのだが…… 今あるポスターの演目はそれではなかった。 剣を持った男が、恐らくジョゼフのつもりなのだろう恐ろしい格好の王様に立ち向かう様が 描かれている。ルイズが唖然と演目名を読み上げた。 「勇者ヒリーギル?」 「サイトくんのことよ」 どうして才人が歌劇の主役になっているのか。その理由を語るスカロン。 「元々アルビオンでの活躍から、サイトくんの名前は平民の間で有名だったわ。そこにガリア との戦争で、見たこともない兵器で怪獣に一人立ち向かい、貴族を何人も決闘で負かして、 挙句には敵国の王様を破ったって話が届けば、そりゃあ爆発的に人気が出るのも当然だわ」 人の噂は吹き抜ける風のように伝わっていくもの。才人が事実上ジョゼフを打ち負かした ところは、ロマリア騎士たちも目撃していたので、そこから話が広まったようだ。 「特にサイトくんは元平民。それが貴族の位を授かって、悪い王様をやっつけたなんて話、 まるでお伽話か叙事詩のよう。今では平民の希望の星として、場所によってはウルトラマン ゼロ以上の支持があるってことよ」 「ま、マジかぁ……」 予想外のところで自分が持ち上げられている事実に、才人は喜びではなく戸惑いを覚えた。 これでもしも自分がウルトラマンゼロでもあるなんてことが知れ渡ったら、ショック死して しまう人まで出るのではないだろうか。 しかし、一方で問題も発生しているという。 「人気が出れば、面白く思わない人たちだって出てくる。ルイズちゃん、誰だと思う?」 「貴族……」 ポツリとつぶやくルイズ。破竹の勢いで成り上がる者を、元々の特権階級が疎ましく思わない はずがない。それが人間というものだ。ゼロたちは完全に生きる世界の違う者たちなのでその 悪感情の矛先が向くことはないが、才人はそうではないのだ。 「正解。うっかり知らない人間なんかを雇った日には、食事に何を混ぜられるのか知れたもん じゃない。サイトくんには、シエちゃんみたいに絶対に信頼できる召使が必要なの」 ルイズは、先ほどのスカロンの意見の真意を理解した。最早シエスタは、自分たちの元に いなければならない人間なのだ。つまらない嫉妬でどうこう言っている場合ではない。 「サイトくんも、今後は素顔を晒してトリスタニアを歩き回らないことね。すぐにもみくちゃに されるわよ。きっと今も噂になってるかも……」 スカロンの忠告の途中で、『魅惑の妖精』亭の羽扉が外から開かれた。 「失礼する。ここにミス・ヴァリエールとサイトが……来ているな」 「アニエスさん!」 入ってきたのはアニエスだった。軽く驚くサイトたち。 「俺たちを捜してたんですか?」 「ああ。学院に向かうところだったのだが、街でお前たちが来ているという話を耳にしてな。 お前たちが立ち寄るならここだろうと覗きに来たのだ。しかしサイト、お前の人気ぶりは すさまじいものになったな。あちこちでお前を称える声を聞くぞ」 スカロンの言う通り、噂になっていたようだ。才人は何だか照れくさいような、そこまで 人気が白熱して怖いような気分になった。 そんな才人は置いて、ルイズがアニエスに尋ねる。 「それより、わたしたちに何の用? また姫さまがわたしたちをお呼びとか……」 「察しがいいな。その通りだ」 アニエスは、トリステイン王家の花押が押された手紙を差し出した。 「陛下のお召しだ。直ちに宮廷に参内しろ」 アンリエッタからの召集とあって、ロマリアが何か行動を起こしたのかと緊張したルイズたちで あったが、それは杞憂であった。アンリエッタは私的にルイズたちに今度の戦の礼を述べるために 呼んだだけであった。 そしてルイズと才人、アンリエッタの三人だけの食事の席で、彼女はルイズたちをガリアとの 交渉官に任命した。ガリアとのパイプを太くして、聖戦に向かおうとするロマリアの動きを制する ためだ。そのパイプ役に適任なのは、タバサと強いつながりがあるルイズたち以外にいない。 それを踏まえて、アンリエッタは言った。 「ルイズはともかく……サイト殿は一国の大使としては、お名前が短すぎるように思えるのです」 「サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガでしたっけ? 十分だと思いますけど」 「サイトは元平民ですから」 日本人の才人の感覚からすればそうだが、貴族の間ではそうではないようだ。 「ですから、わたくしとしてはそのお名前を、多少長くさせていただきたいのです」 才人にはアンリエッタの言わんとするところがピンと来なかったが、ルイズは目を丸くして 口をパクパクさせていた。 「ひ、姫さま? それは、つまりその……。それは、つまり、あの、その……」 「ええ。彼に領地を与えたいのです」 何でもないようなひと言だったが、さすがの才人も噴き出した。 「領地って! 土地ですか!?」 「トリスタニアの西に、ド・オルニエールという領主不在で持て余している土地があります。 あなた方も住むところを探していると聞きましたし、ちょうど良いと思いますが」 「姫さま、その、領地などサイトにはちょっと分不相応なのでは……!」 ルイズが控えめながらに反対した。領地を与えるということは、才人が領主、日本的に 言うなら殿様になるということだ。悪い冗談にしか思えない。 「分不相応な訳がありませぬ。サイト殿の貢献に報いるには、本当ならこれでも少ないと 言えましょう」 そう。オンディーヌやルイズ、ティファニアには学院でそれぞれ恩賞が与えられていたが、 一番活躍したはずの才人にだけ何もなかった。少し不可解ではあったが……この席で伝える ために残しておいたという訳か。 「敵国の王を討ち取ったとあれば、爵位でもおかしくはないくらいですが、多忙である サイト殿に宮仕えはさせられません」 「確かに……」 ルイズには、宮廷で政治に関わる才人の姿なんて想像できなかった。 「貴族の間にはサイト殿を妬む声もあると聞きます。これ以上いらぬ嫉妬を買ってはいけませんが、 救国の英雄、平民の希望の星に何の褒賞もなしではわたくしが平民から吊るし上げられてしまいます。 これが落としどころということで、どうかお受け取り下さいな」 「そういうことでしたら……。でも、いいのかなぁ……」 話を受けながらも、才人は今一つ釈然としていない様子だった。ルイズも、胸の奥に漠然と した不安が残る。 アンリエッタは落としどころといったものの、才人を妬む者には通用しない論理だ。嫉妬心と いうものには理屈が通らない。誰か憎む相手がいるのなら、その対象が着ている袈裟まで憎い。 理不尽な話だが、負の感情に割り切りがある出来た人間は少数なのだ。 スカロンの言うような、食事に毒を混ぜられるような、そんな事態が才人に降りかからないか…… そこが心配であった。 夏休みが始まる直前の週、ルイズたちは下賜された土地、ド・オルニエールを検分しに 行くことにした。初めはルイズと才人の二人だけのはずだったが、シエスタが当然のように ついてきて、そこに話を聞きつけたオンディーヌが加わり、あっという間に大名行列のように なってしまった。 ギーシュたちは、ド・オルニエールの年収が一万二千エキューと聞いて、早くも才人に たかる気満々であったが……実際に到着して目の当たりにしたド・オルニエールの光景に、 失望を覚えることとなった。 「見渡す限りの荒野が続いてるんだけど」 田舎道の左右には、どこまでも荒涼とした更地が続くばかり……。どう見ても、一万エキュー 以上の収入が出るような土地ではない。 ルイズが呆れたようにつぶやく。 「持て余しているというのは本当だった訳ね」 年収一万二千というのはもう過去の話なのだろう。ド・オルニエールは領主の血筋が途絶えて 管理するものがいなくなって久しいとも聞いた。若い働き手はここを離れて、すっかり荒れ果てて しまったという訳だ。 肝心の屋敷も、長年手入れされていないのが丸分かりの、幽霊屋敷もかくやというボロボロっぷり であった。 「これは掃除のし甲斐がありますわね……」 シエスタがそんな皮肉を言うくらいであった。 そして何より、一行を一番呆れ果てさせたのは……。 「ここの領民たち、皆老人ばかりのようだが……随分怠け者ではないか? あちらこちらで 昼寝ばっかりして」 ギーシュがそう口にした。彼らがド・オルニエールで目にした領民たちは皆、土地のそこ かしこで太陽の出ている内からぐっすり寝こけているありさまなのだ。これで呆れない人間が いるだろうか。 しかしルイズはその様子に疑念を抱いた。 「さすがにおかしくないかしら? いくらお年寄りばかりと言っても……道端で寝転んでる なんて。全員が示し合わせたように眠ってるのも変よ」 「言われてみれば、何人かは直前までお仕事をされていたように見えますね」 シエスタも同意した。寝ている人の周りには、畑仕事の道具が散乱していることもあったのだ。 怠けているというよりは、仕事中に突然意識を失ったかのような感じである。 「まさか、何者かに眠りの魔法を掛けられたんじゃ……」 「まさか。こんな実入りのなさそうな土地に貴族崩れの賊が来るとは思えないよ。特に荒らされた 様子もないし。確かにいささか不可解ではあるが……」 ルイズの推理にギーシュが異を唱えていると、その隣のマリコルヌがふあぁ、と大きな あくびをした。 「おいおいきみまでどうした。ご老人たちの眠気に当てられたか?」 「いや……今、変な音が聞こえなかった? それを聞いた途端、急に眠気に襲われて……」 「変な音?」 ギーシュたちが首を傾げていると……ズシン、ズシンという鈍い地響きがゆっくりと近づいて くるのを感じ取った。 「この感じ……まさかッ!」 一行がバッと振り返ると……背後の風景の中に、小山ほどの大きさの見慣れない巨大生物が 闊歩していた! 「か、怪獣だぁ!」 「でも何か間抜け面だな……。豚みたいじゃないか」 「おまけに眠そう」 ギーシュは悲鳴を上げたが、レイナールたちは怪獣から遠くからでも分かるほど覇気が ないのを感じて落ち着いていた。もう散々怪獣を見てきたので、それくらいは分かる。 彼らの前に現れた怪獣は、大きく口を開いて息を吐き出した。 「バオ――――――――ン!」 怪獣の鳴き声が耳に入った途端、 「えッ……?」 才人たちは全員くらりと身体が傾き……その場に倒れ込んでしまった。何が起こったと いうのか!? 「……ぐぅ」 ……全員眠っていた。 ド・オルニエールに出現した怪獣――催眠怪獣バオーンは、才人たちに気がついた様子も なく、ドスドスとのんきに荒野を横切っていった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9111.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十四話「凶刃の侵略者」 光波宇宙人リフレクト星人 高速宇宙人スラン星人 奇怪宇宙人ツルク星人 暗闇宇宙人カーリー星人 登場 マグマ星人率いる宇宙人軍団を撃退した翌日、ルイズ、才人、シエスタ、そして春奈の四人は、 パトロールのためにトリスタニアの街の捜索を行うことにした。侵略者たちの破壊工作の目的が 不明な以上、今日もまた敵が爆破騒ぎを起こすかもしれないからだ。 「あの憎き侵略者たち、また現れたら、今度はとっ捕まえて何の目的があるか吐かせてやるんだから!」 ルイズは俄然張り切っているが、才人はそれをなだめるように言い聞かせる。 「あんまり血気に逸って、無茶するんじゃないぞ。まだ侵略者たちに、どれだけの戦力が あるか分からないんだ。昨日みたいに、戦いに優れた奴が出てくるかもしれない。いつも 無事に勝てるとは限らないんだぜ」 「何よ、その言い方。わたしを子供扱いするつもりなの!?」 才人の物言いにルイズは、興を削がれたような気分になって不機嫌になった。 「実際、宇宙人からしたら子供みたいなもんだろ。敵はそれだけ恐ろしいんだ」 「な、何よぉ! ご主人さまの力が信じられないって訳!?」 「だから、油断をするんじゃないってことを言ってるんだって――!」 「お二人とも、落ち着いて下さい。天下の往来ですよ……」 些細なことで言い争いになるルイズと才人を、シエスタが慌てて止める。その構図に、 水筒の水をあおった春奈はハァとため息を吐いた。 「ふぅ……こんな調子で大丈夫なのかな……?」 ぼやきながら、ふと視線を脇へそらすと、突然目を見開いた。 「あッ、あの鞄!?」 と発すると、急に踵を返してどこかへ走り去っていこうとする。 「えッ!? ハルナさんどちらへ?」 「ち、ちょっと! ハルナ、どうしたの?」 当然ルイズたちは驚き、すぐに春奈の背中を追いかける。才人が一番に追いつくと、 何事か問いかけた。 「どうしたんだよ春奈? いきなり血相抱えて」 春名はそれの、すぐに返答した。 「わ、私のバッグを持っていた人がいたの!」 「バッグ? それがどうしたのよ?」 ルイズには鞄に執着する理由が読めなかったが、春奈はそれについてこう語る。 「ただのバッグじゃないの。……私がこの世界に連れてこられた時に、持ってきていた 唯一のバッグなの!」 地球からの春奈の持ち物を持っていた人がいたという。その証言に驚く才人。 「そ、それを早く言えよ。どっち行ったんだよ! そのバッグを持った奴って!」 「ええと……。あ、あっちの方!」 焦る春奈は、鞄を持っているという者の後ろ姿が路地裏に入っていくところを目にして、 自身もその路地裏に入っていく。才人たちは出遅れてしまった。 「ま、待てって春奈! 罠かもしれないんだぞ!」 追いかけながら警告したが、もう遅く、気がつけば春奈も見失ってしまい、無人の裏通りに 迷い込んでしまっていた。 「く、くそう! どこ行ったんだよ!」 「ハルナさん、一人で大丈夫でしょうか……?」 才人とシエスタが周囲に目を走らせて春奈の姿を探していると、突然ゼロが声を上げた。 『ちょっと待て。様子が変だぜ』 「え?」 『まずいな……。罠に掛かったのは俺たちの方だったみたいだ。囲まれてやがる!』 『キエエエエエッ!』 ゼロの言葉の直後に、通りの陰から、丸いシルエットが三人に飛び掛かってきて、剣を 振り下ろしてきた。 「危ないッ!」 「きゃッ!?」 才人が反射的にデルフリンガーを抜いてルイズとシエスタをかばい、影の剣を防御した。 丸い影は背後へ下がり、石畳の上に着地する。 『フッフッフッ、地球人のくせに私の剣を受け止めるとは、なかなかやるものですねぇ』 影の詳細な姿が、白日の下に晒される。いくつものトゲが生えた銀色の丸いボディに、 手足が生えているという、一見するとコミカルな姿だが、トゲや手の甲から伸びる剣は 紛れもない凶器だった。 「何あの、ウニみたいな奴!」 『お前は、リフレクト星人!』 ゼロは宇宙人のことを知っていた。過去にウルトラマンメビウスがなすすべなく敗れたことがある、 強敵武闘派宇宙人、リフレクト星人だ。 『如何にも、私はリフレクト星人。下等な虫けらの諸君、御機嫌よう。もっとも、すぐ お別れすることになりますがね』 「む、虫けらですって!?」 リフレクト星人の口ぶりとは正反対の無礼さに、ルイズがプライドを傷つけられて憤怒した。 が、リフレクト星人は構わずに続ける。 『それと、連れの者たちも紹介しましょう。出てきなさい!』 「グウオオオオオ!」 ルイズたちのいる場に、細身のシルエットがどこからともなく飛び出てきた。だが新手の影は、 移動スピードが信じられないほど速く、ルイズやシエスタの目では残像しか捉えられなかった。 才人がウルトラゼロアイで射撃するが、新手は難なく回避し、三人の背後に来てようやく停止する。 「キュキュウーイ!」 「ファア―――!」 敵はそれだけではなかった。更に左右から、両手に刃を生やした怪人と両肩に三日月状の とがった角を取りつけた怪人の二人が襲い掛かってくる。 「きゃああッ!」 「ぐぅッ!」 さすがに二人同時の攻撃は防御し切れない。才人を含め、ルイズたちは咄嗟に転がって、 向かってきた刃をかわす。才人は端末で、新たに出現した敵三人の情報を引き出した。 「スラン星人! ツルク星人に、カーリー星人!」 どれもが攻撃性の高い、凶悪な宇宙人だ。才人たちは四人もの宇宙人に囲まれてしまい、 逃げ場を失ってたじろいだ。そんな中で、リーダー格であるリフレクト星人が口を開く。 『あなた方のことはよく聞いてますよ。つい昨日も、我々宇宙人連合の計画を妨害してくれたとか。 そういうことですので、まずは邪魔者を片づけてからゆっくりと計画を遂行するために、私たちが 派遣されたという訳です』 「くッ、先に俺たちを狙うことにしたのか……!」 脂汗を浮かべて歯軋りする才人。この状況はまずい。狭い空間に敵が四人など、この場で ゼロに変身したとしても、ルイズとシエスタを守り切れるかどうか分からない。 『雑談はこのくらいにしましょう。さっさと仕事を片づけさせてもらいますよ!』 リフレクト星人たちは考えを練る時間も与えてくれずに、四人一斉に飛び掛かってきた。 それで才人はいちかばちか、ゼロアイで変身しようとする。 その瞬間に、頭上から火炎と氷の槍が宇宙人たちに降りかかり、足を止めて才人たちの窮状を救った。 『何!? 誰だッ!』 リフレクト星人が顔を振り上げると、彼らの上空に、一匹の風竜が漂っていた。そして その背の上に乗っているのは、もちろん……。 「キュルケ! タバサ!」 「ハァイ、ルイズ。あなたたちは、いつもピンチの真っ只中にいるわね」 「間一髪」 いつものキュルケとタバサのコンビだ。ルイズがすぐに尋ねかける。 「もう大体予想つくけど、どうしてここにいるのよ?」 「そりゃもちろん、あなたたちが王宮に呼び出されて、日付が変わっても帰ってこないから、 また面白そうなことに関わってると思って……」 「グオオオオ!」 キュルケが話している途中で、スラン星人がシルフィードへと光弾を発射した。シルフィードは スイッと下がって、光弾を回避する。 「ちょっと、レディの会話をさえぎらないでもらえる? 育ちが悪いわね」 「言っても無駄」 タバサがひと言つぶやくと、キュルケとともに炎と氷の攻撃を宇宙人たちに降り注ぐ。 リフレクト星人は前腕に装着した盾で防ぎ、他の三人は素早く飛びすさってよけた。 『ええい、うっとうしい! 虫けらは虫けららしく、踏み潰してやりましょう!』 キュルケたちの加勢に苛立ったリフレクト星人が高く跳躍すると、スラン星人たちもそれに 続いてジャンプする。 そして四人の宇宙人たちは、40メイル級に巨大化してトリスタニアに降り立った。ツルク星人と カーリー星人は、蜥蜴人間のような容姿に変化までしている。 「もう、ウチュウ人ってすぐこれなんだから! 卑怯じゃない!」 「退却」 瞬く間に各地で悲鳴が沸き上がる中、タバサたちはルイズたちを回収するために一旦降下する。 才人はシルフィードの上にルイズとシエスタを乗せると、彼女らに告げた。 「お前たちは、春奈を探してくれ! あいつも狙われてるかもしれない! 俺はその間、 宇宙人たちを引きつける!」 「無理しないでよ!」 リフレクト星人が迫ってくるので、シルフィードはすぐに飛び立って退却していった。 一人残った才人は、巨大化した剣が自分へ振り下ろされるのを見上げながら、ゼロアイを装着した。 「デュワッ!」 直ちに変身したウルトラマンゼロは、ゼロスラッガーで剣を押し返しながら巨大化し、 リフレクト星人と激しくにらみ合う。 『ウルトラマンゼロォ……! 我がリフレクトの同胞の、ウルトラ一族への恨み、ここで 晴らしてやりましょう!』 『やれるもんならやってみなッ! 二万年早いってこと、教えてやるぜ!』 リフレクト星人と鍔迫り合いするゼロだが、その横からスラン星人、ツルク星人、カーリー星人が 攻撃を加えようとする。 「グウオオオオオ!」 「ゲゴオオオオオオウ!」 「ギャーアーゴ―――!」 スラン星人の手の甲から伸びた刃、ツルク星人の腕の剣、カーリー星人の肩の角がゼロへ差し迫る。 一方のゼロは、リフレクト星人と押し合っていて無防備。ゼロのピンチ! 『はぁッ!』 その時、街の家屋のガラス窓が輝いた。そして銀色の光の中からミラーナイトが飛び出し、 ツルク星人に飛び蹴りを入れる。 『ジャンファイト!』 はるか上空からはジャンボットが降下してきて、スラン星人にタックルを決めて弾き返す。 『ファイヤァァァァ―――――――!』 そしてカーリー星人の眼前にグレンファイヤーが登場し、顔面にパンチを浴びせて突進を止めた。 「あッ! ウルティメイトフォースゼロだぁ!」 トリスタニアのどこかで、子供の喜びの声が上がった。四人の宇宙人相手に、ウルティメイトフォースゼロも 四人全員出動したのだ。 『あなた方のお相手は、私たちがしましょう』 『ゼロにも人々にも、手出しはさせん!』 『さってと、とっとと始めようぜぇッ!』 仲間たちが敵三人を止めてくれたので、ゼロは心置きなくリフレクト星人と対決することが 出来るようになった。ゼロは依然鍔迫り合いしながら問いかける。 『やい! お前ら宇宙人連合は、春奈をこの世界にさらってきたり、爆弾で街を破壊したりして、 何をたくらんでるんだ! 知ってることを話しな!』 すると、リフレクト星人はせせら笑いを返した。 『ふふ、私は知りませんねぇ。作戦はマグマ星人の立案したもの。我々はただ、教えられた役割を 果たすだけ。どういう作戦かには興味がありませんねぇ』 『そうかい……。だったら、もう遠慮はしねぇぜ! ぶっ飛ばすッ!』 甲高い金属音を鳴らして、ゼロスラッガーと剣が離れる。それに合わせるように、ゼロと リフレクト星人も距離を取った。 「ジュワッ!」 後ろへ下がったゼロはエメリウムスラッシュを発射。しかし緑色のレーザーは、リフレクト星人の 丸盾で防御されると、折れ曲がってゼロへ戻っていく。ゼロは上半身を横に傾けてレーザーをかわした。 『ちッ。お前の種族には光線技が効かないっての、ホントなんだな』 『その通りです。光線が武器の輩には、私は天敵なのですよ』 ゼロのつぶやきに、リフレクト星人は自信満々に肯定した。 リフレクト星人の身体は、誘電体多層膜ミラー構造という、光線の吸収率が全くない 特殊な造りをしている。そのため、ウルトラ戦士の必殺光線すら完全に通用しないのだ。 ウルトラマンメビウスはリフレクト星人との初戦時、この特性によって攻撃がことごとく はね返され、完敗を喫したのだった。 だがゼロは、光線技が効かないことにひるみはしなかった。 『光線技が駄目なら、それ以外で倒すだけだぜッ!』 離した距離を再び詰め、ゼロスラッガーで剣戟を繰り広げる。 そう、ウルトラマンレオ直々の手ほどきを受けたゼロは、近接戦闘にも優れている。 メビウスもレオに課せられた特訓の成果により、リフレクト星人を破ったのだ。ならば 同じレオに育てられたゼロが負ける道理はない。 『ふぅんッ!』 だと思いきや、リフレクト星人の剣によって、ゼロスラッガーが両方ともゼロの手中から 弾き飛ばされた。宙を舞ったスラッガーはゼロの頭に戻る。 『何ッ!』 『フッフッフッ。考えが甘いですね。私の剣技はリフレクト星でも随一! 私の方こそ、 近接戦闘を得意としているのですよ!』 驚くゼロに堂々と言い放つリフレクト星人。どうやら、自身の防御性能に慢心せずに、 直接の戦闘能力も鍛え上げているようだ。これは強敵だ。 しかし、それでもゼロは動じない。むしろ逆に、より闘志をかき立てる。 『面白いじゃねぇか! だったら剣での勝負と行こうぜ!』 対抗心を燃やしたゼロは、円盤生物戦の時のように、巨大化させたデルフリンガーを出して 柄を握り締めた。今度は、デルフリンガーでリフレクト星人と斬り合う。 『はぁぁぁぁぁッ!』 『キェェェェェッ!』 ゼロとリフレクト星人が気合いを発し、剣と剣を交えた。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『はッ! たッ!』 ゼロがリフレクト星人と戦っている一方で、ミラーナイトはツルク星人の両腕の刀から 繰り出される斬撃をかわしていた。流麗な動きで、見事に敵の攻撃を回避する。 「ゲゴオオオオオオウ!」 『……見た目に反して素早い身のこなしと太刀筋。これは厄介ですね……』 しかし同時に、なかなか反撃に出ることも出来ずに手をこまねいていた。ツルク星人は 両手の刀を交互に繰り出す素早い二段攻撃を得意とする。その連続技の完成度は、実戦経験が 不足で未熟だった頃とはいえ、格闘の達人のレオが一度なす術なくやられたほどなのだ。 だがミラーナイトも技巧派の戦士。連続の斬撃の間のかすかな隙を見つけ、宙返りしながら 高く跳び上がる。 『やッ!』 「ゲゴオオオオオオウ!」 空中からミラーナイフを放つが、ツルク星人が顔面の前で交差した刀に易々と防がれた。 ツルク星人の刀は、切れ味も硬度も天下一品。攻守ともに使える恐ろしい武器なのだ。 「ゲゴオオオオオオウ!」 そして落下してきたばかりのミラーナイトに、その凶器を振るう! ミラーナイトにかわす暇はない! ……が、刀が叩き込まれると、ミラーナイトの姿が粉々に砕け散った。今斬ったのは鏡。 ミラーナイフを防御したことでツルク星人の視界が塞がれた一瞬の間に作った身代わりなのであった。 「!?」 『私はここですよ! はぁッ!』 割れた鏡の後ろから、本物のミラーナイトが飛び出す。そして両手のチョップでツルク星人の 刀と腕のつけ根を打ち、刀をへし折った。ふた振りの刃が宙を舞う。 『とぁッ!』 ミラーナイトはもう一度ジャンプし、舞った刀を指ではっしと掴む。そして落下の勢いを乗せて、 ツルク星人の胸に深々と突き刺した。 『お返ししましたよ』 ミラーナイトが短く告げると、ツルク星人は背後にバッタリと倒れ込んで、そのまま絶命した。 己の自慢の武器が死因となる、皮肉な最期だった。 また他方では、ジャンボットとにらみ合っているスラン星人が、ジャンボットに問いかける。 『ウルティメイトフォースゼロよ、何故この星の人間を守ろうとする。この星の人間に、 守るだけの価値があるのか?』 『何? それはどういうことだッ!』 ジャンボットがきつい口調で問い返すと、スラン星人はこう語り出した。 『このハルケギニアは美しい星だ。だがこの星の人間は、大地を、空を汚し始めている。 星の悲鳴が聞こえないのか』 ハルケギニアは魔法文明なので、工業は地球と比べればほとんど発達していない。しかし 資源の大量採掘や森林伐採、工場の排煙による大気汚染などの環境破壊はゲルマニアなどで 徐々に進行している。いずれは、地球と同じように環境問題に頭を悩ませるようになることだろう。 『その前に、我々スラン星人がこの星をもらい受けることで、この星を救うのだ。星を苦しめる者どもを 守ることに何の価値があるというのだ!?』 と突きつけるスラン星人に、ジャンボットは言い返した。 『侵略行為による救済など、間違っているぞ!』 『何だと!?』 『確かにこの星の人間は、貴様の言うような過ちを犯している。だが人間には、過ちを正そうという 心がある。人間は自らの手で、星を、自身を救えるはずだ。私は信じている!』 惑星エスメラルダを護ってきたロボット、ジャンボットは見届けた。外宇宙から現れた 「ベリアル」という最大の脅威を、人間たちが紡ぐ「光」が打ち破ったことを。その未来を 掴む「光」は、ハルケギニアの人々の心にも宿っているはずだ。 『昨日今日やってきただけの外来者に、この星の未来を語る資格はない!』 ジャンボットに言い切られると、スラン星人は頭をかきむしって憤慨した。 『黙れ、屑鉄ロボットが! 何と言おうと、我々がこの星を頂くのだ!』 『ふッ、どれだけ言葉で飾ろうと、貴様は所詮傍若無人な侵略者に過ぎないのだな! 態度が 物語っているぞ!』 『えぇい、うるさいッ! 我が動きについてこれるかッ!?』 スラン星人は体勢を直すと、超高速で横にスライドし出した。ジャンボットは一瞬にして、 周囲全てをスラン星人の残像に取り囲まれる。 『むッ!? 何というスピードだ!』 「グウオオオオオ!」 スラン星人は超高速移動を行ったまま、両腕から光弾を連続発射する。移動と発射の合わせ技により、 ジャンボットは360度から攻撃を食らう。 『ぐううぅぅぅぅぅぅッ!』 相手のあまりの速さにより、どこから撃ってくるかが見切れず、ジャンボットは食らうがままになる。 しかし鋼鉄のボディと熱い正義の心を持つ彼は、それしきの逆境ではくじけない。 『私は鋼鉄の武人、ジャンボット! その程度の目くらましでは、私は翻弄されないッ!』 レーダーと電子頭脳をフル活用して、スラン星人の動きのパターンを捕捉する。そして 左腕を上げて、相手の残像の一箇所に狙いを定める。 『ジャンナックル!』 ロケットパンチが飛んで、残像の列に飛び込むと、見事スラン星人の実体を殴り飛ばした! 「グオオオオオ!?」 『ビームエメラルド!』 すかさず頭部から発射口がせり上がり、必殺レーザーを照射した。ビームエメラルドは 狙い違わずスラン星人に命中し、一撃で粉々に吹っ飛ばした。 「ギャーアーゴ―――!」 カーリー星人は腰を折って両肩の角を前に突き出すと、その姿勢のままグレンファイヤーへ 一直線に突進を仕掛けた。グレンファイヤーは速く、同時に重い突進攻撃を正面から食らう。 カーリー星人の最大の武器は、角を活かしたこの突進。その威力は、ウルトラマンレオの 巨体を軽々と吹っ飛ばしたほどもある。 『へッ! 今のが体当たりのつもりなのかよ!』 「ギャーアーゴ―――!?」 だが、グレンファイヤーは角をガッシリと掴んで、突進を受け止めていた。捕らえられた カーリー星人は、拘束を振りほどくことが出来ずに慌てふためく。角から電撃を放つも、 それでもグレンファイヤーの手は離れない。 グレンファイヤーはパワー型の熱血戦士。肉体を駆使した正面対決ではカーリー星人の方が、 分が悪かったようだ。 『テメェの突進なんて、ジープなんかと比べりゃちっとも大したことねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――!』 「ギャーアーゴ―――!」 グレンファイヤーは胸のシンボルを浮き上がらせ、全身を燃え上がらせる。その炎はカーリー星人に 燃え移り、そのまま大爆発を引き起こした。 『へっへーん! ざっとこんなもんよ!』 カーリー星人を爆散させたグレンファイヤーは、頭部の炎をかき上げて見得を切った。 他の三人の宇宙人は倒され、残るはリフレクト星人だけである。そのリフレクト星人は、 ゼロと激しく火花を散らして切り結んでいた。 『うりゃあッ!』 だがゼロがデルフリンガーを大きく振り上げると、それと衝突したリフレクト星人の剣が 半ばからへし折れ、地面に突き刺さった。 『ば、馬鹿な! 私の剣が、人間如きの剣などに!?』 大ショックを受けるリフレクト星人に、ゼロが告げる。 『デルフはただの剣じゃねぇ! 俺たちの仲間だ! テメェの魂のこもってない剣なんかじゃ、 勝てっこなかったのさ!』 『くぅぅ……! こうなったらぁッ!』 武器を失ったリフレクト星人は、突如左腕を避難中の市民たちに向けると、丸盾からチェーンを 発射した。彼らを人質に取ろうという考えだ。丁寧な口調を使いながらも、リフレクト星人も本質は ルール無用の侵略者。追い詰められて、化けの皮を剥がしたのだ。 「きゃあああぁぁぁぁ!」 狙われた市民が悲鳴を上げる。だがチェーンは横から飛んできたゼロスラッガーに弾かれ、 力なく街の狭間に落下した。 『何ッ!?』 『どうせそんなことすると思ったぜ! 見え見えなんだよ、せこい考えがッ!』 そしてこれはリフレクト星人の失策だった。気が市民にそれたことでみすみすゼロに攻撃の チャンスを与えてしまい、懐に飛び込まれてしまう。 そして、リフレクト星人は胴体をZ字に切り裂かれた。 『フィニッシュ!』 『うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――!!』 リフレクト星人は断末魔を上げ、花火のように爆発四散した。 「やった! ウルティメイトフォースゼロの勝利だ!」 「やっぱりゼロは強いやぁ!」 刺客の宇宙人が全て倒されると、子供たちを始めとして、トリスタニアの人々が歓喜の声を上げた。 それを受けながら、ミラーナイトらがゼロに呼びかける。 『ゼロ、ハルナを探してるところだったのでしょう。早く彼女を見つけてあげて下さい』 『他に敵はいないようだが、伏兵が潜んでいるかもしれない。側にいた方がいいだろう』 『また敵が出たら、いつでも呼んでくれよ! じゃないと退屈だしな!』 『ああ、分かった。ありがとな、お前ら!』 仲間三人が空へ飛び立つと、ゼロは縮小化し、才人の状態に戻っていった。 ゼロから戻った才人は、すぐに春奈と、彼女を探しに行ったルイズたちの捜索に戻った。 「と言っても、春奈たちはどこなんだろうな? シルフィードが飛んでたら、目立っていいんだけど」 戦いが終わったことで、街には人の波が戻ってきた。それに呑まれないように、裏通りを選んで走る。 しかし春奈たちの居場所に見当がつかないので、実際には右往左往していた。 と、そんなところに、噂したばかりのシルフィードと、跨っているタバサとキュルケが近くに飛んできた。 「ダーリーン! ハルナって言ったかしら? その娘を見つけたわよー!」 「本当か!? どこだ、案内してくれ!」 「ついてきて」 タバサの指示通り、才人はシルフィードの後を追いかけていく。そしてたどり着いたのは、 大きな劇場前だ。 「ここって確か、劇場? こんなとこに春奈が……」 つぶやいた才人の目に、早速春奈とルイズ、シエスタの後ろ姿が映る。 「わ、私の大切なバッグなんです!」 先頭に立つ春奈が、見知らぬ女性相手に必死に訴えていた。その女性の手には、日本で 一般的に使用されている通学鞄が握られている。 「何だか穏やかじゃない物言いね。まるで、わたしがこのバッグを奪ったみたいじゃない?」 だが、相手の女性は春奈の訴えを退けようとしているようだった。才人は、女性の容姿をよく確認する。 短い金髪の、顔立ちが整ったかなりの美女だ。だがそれ以上に目を引く部分が、頭頂部に存在する。 その女性は、髪の間から猫のような耳を生やしていたのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9402.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三十六話「三冊目『ウルトラマン物語』(その3)」 宇宙の帝王ジュダ ジュダの怪獣軍団 暴君怪獣タイラント 登場 『古き本』の攻略もいよいよ半分の三冊目に突入。三冊目はウルトラマンタロウの成長物語 であり、ゼロは本の中のタロウを一人前のウルトラ戦士にするべく熱心に鍛え抜く。その甲斐あり、 タロウは見事地球を攻撃する再生エレキングとメフィラス星人を撃破した。しかしウルトラの父が、 宇宙の悪魔ジュダの復活の時が近いことを告げる。ウルトラの父はタロウを、ジュダを倒せる 超ウルトラ戦士にするべく最後の特訓を施す。だがそれを妨害しようと、ジュダは先手を打ってきた。 地球を襲う凶悪怪獣軍団! ゼロはタロウに代わって地球を守護するべく、ウルトラ五兄弟とともに ジュダの軍勢に立ち向かっていくのであった。 「ギイイイイイイイイ!」 ジュダが繰り出した怪獣軍団の一体であるエンマーゴは、口から大量の黒煙を吐いて辺りの 木々を立ち枯れさせていく。エンマーゴの吐く煙は、如何なる生物もたちまち死滅してしまう 恐るべき悪魔の武器なのだ。このままでは、周囲一帯が草木一本も生えない死の大地になってしまう。 そこに駆けつけたのがウルトラマンゼロ! エンマーゴの凶行を阻止すべく、颯爽と戦いを挑む。 『そこまでだ! 食らえッ!』 ゼロは先手必勝とばかりにワイドゼロショットを放ったが、エンマーゴは左手の盾を構えて 光線を遮断した。 『フハハハハッ! そんなものがこの俺様に通じるかッ!』 ワイドゼロショットを防御したエンマーゴが得意げに高笑いした。 『何ッ! 傷一つつかねぇだと!』 『っていうかしゃべった!?』 驚く才人。エンマーゴは確かに怪獣と言うよりは、名前の由来の閻魔大王そのままの姿で あるが、口を利く能力は持っていなかったはずだ。 「ギイイイイイイイイ!」 エンマーゴはそんなことお構いなしに右手の剣を突きつけながらゼロににじり寄ってくる。 同時に黒煙も吐き出すため、ゼロも迂闊に飛び込むことは出来ない。 『くッ、こいつを食らうのは危険だぜ……!』 黒煙の殺傷力はゼロにとっても無視できないほど強力だ。ゼロはじりじりと後退するが、 少しずつ距離を狭められ追いつめられていく。 やがてゼロのかかとが突き出た岩にぶつかった時、好機と見たエンマーゴが一気に飛び込んできた。 『その首級もらったぁッ!』 エンマーゴの殺人剣がゼロの首を狙う! 危うし! 『はッ!』 だがゼロは瞬間、ブレスレットからウルトラゼロランスを出し、その柄で剣を受け止めた。 『何ぃッ!』 『武器での勝負なら負けねぇぜ!』 『小癪な! 俺様の恐ろしさをとくと教えてくれるわぁッ!』 ゼロランスでエンマーゴと激しく切り結ぶゼロ。武器の腕ならばゼロに軍配が上がるのだが、 エンマーゴには黒煙もある。剣とともに繰り出される黒煙のために、なかなか攻勢に出ることが 出来ない。 『だったらッ!』 そこでゼロは額のビームランプからエメリウムスラッシュを発射する構えを見せた。だが 光線攻撃を察したエンマーゴがすかさず盾を構えて防御態勢を取る。 しかしそれはゼロのフェイントだった。 「セェイッ!」 ゼロはエンマーゴの構えた盾を、下から思い切り蹴り上げる! 予想外の方向からの衝撃に、 盾はエンマーゴの手を離れて放り飛ばされていった。 『何だとぉッ!?』 動揺するエンマーゴ。その隙を逃すゼロではない。 「テェアッ!」 後ろに跳びながらゼロランスを投擲し、まっすぐ飛ぶランスがエンマーゴの身体の中心を 貫通した。 「ギイイイイイイイイ!!」 「セアッ!」 苦しむエンマーゴに改めてエメリウムスラッシュが撃ち込まれ、エンマーゴは一瞬にして 爆散。その脅威は取り払われたのだった。 だがこれで終わりではなかった。むしろここからが戦いの本番であった。 『よくもやってくれたものだな、青きウルトラ戦士よ! このわしの邪魔をしようとは、 身の程知らずな奴よ!』 突然空が夜になったかのように暗くなり、角を生やした魔人の虚像がいっぱいに映し出された。 それを見上げたゼロが指を突きつける。 『お前がジュダだな!』 『左様! 愚かな貴様に、わしの偉大な力を見せてくれるわッ!』 ジュダが宣言するとともに、暗転した空に妖しい光の瞬きが複数出現した。星の光ではない。 あの不気味な光は……怪獣の悪霊の魂だ! 『宇宙に散らばる悪魔の魂よ、集まれぇぇぇぇッ!』 ジュダの命令により、怪獣たちの魂が地上に落下してきてゼロの前で一つに合体していく。 そして一体の大怪獣の姿へと変貌した。 「キイイイイィィィィッ!」 それは複数の怪獣のパーツが組み合わさって一個の怪獣の形となっている、ゼロも才人も 見覚えのある怪獣であった。暴君怪獣タイラントだ! タイラントは既に倒したことがあるが、油断はならない。一冊目のゼットンの例がある。 あの時のようにイレギュラーな事態が発生するかもしれないし、暗黒宇宙の帝王ジュダが その手で作り上げた怪獣が簡単に行くとは思えない。 果たして、ジュダは生み出したタイラントに向けて告げた。 『合体獣タイラントよ、お前にわしの力を授けよう!』 ジュダの両目から暗黒のエネルギー光線が放たれ、タイラントに吸収された。 その途端、タイラントに異変が発生する! 「キイイイイィィィィッ!」 『うおッ!?』 その全身が激しくスパークしたかと思うと、メリメリ音を立てて膨れ上がり、また変形を起こす。 そうして瞬く間に、体高がゼロの二倍近くにまで巨大化した。 「キイイイイィィィィッ!!」 ただ巨大化しただけではなく、肉体にゴモラの後ろ足とジェロニモンの羽根飾りが追加され、 ケンタウロスを思わせるような体型に変化を果たしていた。この姿を目の当たりにしたゼロが 舌打ちする。 『くッ……EXタイラントか!』 『ゆけぇッ、タイラントよ! ウルトラ戦士を叩き潰し、地球を滅茶苦茶に破壊してやるのだぁぁぁッ!』 「キイイイイィィィィッ!!」 ジュダのエネルギーを得てはるかにパワーアップしたEXタイラントが左腕を振り回す。 すると鎖が伸びて鉄球自体が飛んできて、ゼロを横殴りした。 『うあぁぁッ!』 鉄球だけでもすさまじい質量。攻撃を食らったゼロが大きく吹っ飛ばされて、山肌に叩き つけられた。 『つぅ……! 半端じゃねぇパワーだ!』 「キイイイイィィィィッ!!」 うめいたゼロにタイラントは四本の足で地響きを起こしながら突進してくる。自分の倍以上の 巨体が突っ込んでくるのはものすごい迫力だが、ゼロはひるまなかった。 ウルトラの星では、タロウがジュダを倒すための特訓を今もなお続けている。彼がやり遂げる ことを信じて、今は自分がEXタイラントの暴威を食い止めるのだ。 『おおおぉぉッ!』 ゼロは鬨の声を上げて、タイラントに自分から向かっていった。 ゼロが必死に戦っている頃、別の場所に現れた怪獣たちは、ウルトラ五兄弟が相手をしていた。 「ギャアアアアアアアア――――――!」 「ヘッ!」 コスモリキッドの相手をしているのはゾフィーだ。ゾフィーはコスモリキッドにチョップ、 キックを繰り出すが、肉体が液体に変化する能力を持つコスモリキッドには打撃が全てすり抜けて しまい、全く効果がない。逆に殴打を食らって地面を転がる。 「ギャアアアアアアアア――――――!」 通常攻撃を全て無効化する恐ろしい怪獣。普通なら勝ち目などないと絶望してしまうだろうが、 ウルトラ兄弟長兄にして宇宙警備隊隊長のゾフィーは、持ち前の冷静な頭脳によって既にコスモリキッドを 倒す作戦を思いついていた。 「ウルトラフロスト!」 伸ばした両腕の指先から、猛烈な冷却ガスを噴出。それをコスモリキッドに浴びせる。 「ギャアアアア……!」 ガスを浴びたコスモリキッドはたちまち凍りつき、一歩も身動きが取れなくなった。液体の 怪獣なので、全身が凍りついてしまえば全く動くことが出来なくなってしまうのだ。 そしてゾフィーはとどめとして稲妻状の光線、Z光線を撃ち込む。これによってコスモリキッドは 瞬時にバラバラに砕かれた。全身を凍らされた上で粉微塵にされては、コスモリキッドもどうする ことが出来なかったのだった。 「アハハハハハハ! アーハハハハハハハハ!」 「ヘアァッ!」 他方ではウルトラマンエースがライブキングを激しく殴り合っていた。エースは相手のボディに 重いパンチを何発も見舞うが、タフネスに優れるライブキングは全く以て平気な顔であった。 エースはライブキングに突き飛ばされる。 「アハハハハハハハハ!」 「ダァッ!」 立ち上がったエースは額のランプに両手を添えて、パンチレーザーを発射。レーザーは ライブキングの口内をピンポイントで撃つ。 口の中を攻撃されてはライブキングもひとたまりもない……そう思うかもしれないが、 それでもライブキングはまるでへっちゃらだった。 「アーハハハハハハハハハッ!」 ライブキングは再生怪獣。心臓さえ無事なら、そこからでも完全復活が出来るほど生命力が 強い肉体は、攻撃を受ける端から回復してしまうので、まともに攻撃していても焼け石に水なのだ。 エースも手がないかと思われたが……それは違う。エースはライブキングに肉薄すると、 その巨体を頭上に抱え上げる。強力な投げ技、エースリフターだ。 「イヨォッ! テヤァッ!」 投げ飛ばして地面に叩きつけたライブキングは、さすがに一瞬動きが止まって隙が生じる。 エースはそれが狙いだった。 「ヘアッ!」 合わせた手の平から液体を噴出し、ライブキングに浴びせかける。そうするとライブキングの 肉がドロドロと溶けていく。 エースが放っているのはただの液体ではない。怪獣の身体もこのように溶かしてしまうほどの、 非常に溶解性の強いものだ。普通の攻撃が通用しないような相手のために開発した技、ウルトラ シャワーである。 ライブキングも肉体を跡形もなく溶かされては、再生することはかなわない。やがて完全に 溶解されて消滅したのであった。 「ゲエエオオオオオオ!」 「シェアッ!」 ウルトラマンはムルロアを相手に取っていた。が、宇宙大怪獣であるムルロア相手にかなりの 苦戦を強いられていた。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ウアァッ!」 ムルロアは身体中に生えた管から大量の黒い煙を噴射しながらウルトラマンに体当たりして 突き飛ばす。更に口から鋼鉄もあっという間に溶かす強力な溶解液を飛ばしてきて、ウルトラマンは 危ないところでかわした。 ムルロアが噴出する煙は光を完全に閉ざしてしまい、現実世界では地球全体がムルロアの 煙に覆われて太陽光を遮断されてしまったこともあった。光の種族たるウルトラ戦士にとっても この特性は非常に危険であるため、ウルトラマンはまだ煙の量が少ない今の内にどうにかしなければ ならないと判断する。 「ゲエエオオオオオオ!」 「ヘッ! ダァッ!」 そしてムルロアの一瞬の隙を突いて、ウルトラアタック光線を照射。これが命中したムルロアは 身体が硬直する。 この間にウルトラマンはムルロアに駆け寄って、巨体をあらん限りの力で抱え上げた。 「ヘアァッ!」 持ち上げたムルロアを天高く放り投げ、ウルトラ念力を集中して爆破させた。ムルロアは 危ないところで、ウルトラマンの作戦によって撃破されたのだった。 「キイイィィィィィ!」 「ダァーッ!」 ムカデンダーと戦っているのはウルトラセブンだ。セブンはムカデンダーの振り回す右手の指が 変化したムチをかわし、アイスラッガーを投擲してムカデンダーの首を綺麗に切り落とした。 簡単に決着がついたかと思われたが、切断されたムカデンダーの首は何と独立して動き、 セブンの肩に噛みついてきた! 「グワァーッ!」 これがムカデンダーの最大の特徴と言ってもいい特殊能力。首が胴体と別々に行動することが 可能で、その変則的な動きに敵は惑わされるのだ。 だがセブンは歴戦の戦士。このような小細工で狼狽えたりはしなかった。 「デュッ! ジュワァッ!」 「キイイィィィィィ!」 素早くムカデンダーの首を捕らえて肩から引き離し、頭部に何度も拳骨を浴びせる。すると 首が物理的に離れていても感覚はつながり続けている胴体が苦しんでドタバタもがいた。 大きくひるんだムカデンダーの首をセブンは空高く投げ飛ばし、エメリウム光線を発射! 「ジュワッ!」 首は空中で爆発。残った胴体も、L字に曲げた右腕の手刀から発したハンディショットで粉砕した。 ウルトラマンジャックはドロボンと一対一の決闘を繰り広げていた。 『うおおおおお―――――!』 「アァッ!」 しかしジャックはドロボンの金棒によって滅多打ちにされる。意外かもしれないが、ドロボンは ZATに「エネルギー量ならこれまでの怪獣の中で一番」と評されたほどのパワーを有しているのだ。 その圧倒的攻撃力にはジャックも大いにてこずらされていた。 「ウアァッ!」 金棒の突きでジャックは大きく吹っ飛ばされ、大地の上を転がった。ジャックはこのまま やられてしまうのか? いや、ジャックにも強力な武器があるのだ。立ち上がった彼は左手首に嵌まっているそれを 手に取った。セブンから授けられた、あらゆる宇宙怪獣と互角に戦えるウルトラの国のスーパー 兵器、ウルトラブレスレットである! 「ジェアッ!」 ジャックはブレスレットをウルトラスパークに変形させて掲げると、まぶしい閃光が焚かれ、 それを浴びたドロボンの動きが一瞬停止した。 その隙に投擲されたウルトラスパークが宙を飛び、悪を断つ刃となってドロボンの右腕、 左腕、そして首を瞬く間に斬り落とした。崩れ落ちたドロボンの肉体はエネルギーが暴走して 爆破炎上する。 「シェアッ!」 ドロボンを討ち取ったジャックは空に飛び上がり、EXタイラントに苦戦しているゼロの元へと 急行していった。他の兄弟たちもまた、同じようにゼロの元を目指して飛行していた。 『だぁぁぁッ!』 「キイイイイィィィィッ!!」 ゼロは果敢にEXタイラントにぶつかっていくが、如何せん体格差が違いすぎる。ゼロは ひと蹴りで弾き飛ばされてしまった。 『ぐぅッ……だが負けねぇぜ……! タロウが必ずここに来てくれる!』 そのことを信じてめげずに戦い続けるゼロ。そんな彼に応援が駆けつけてくれた。 「シェアッ!」 『あッ! ウルトラ兄弟だ!』 才人が叫んだ通り、ゾフィーからエースまでのウルトラ五兄弟が到着したのだ。彼らは EXタイラントに向けて、M78光線、スペシウム光線、ワイドショット、シネラマショット、 メタリウム光線の必殺光線一斉発射攻撃を加えた。 「キイイイイィィィィッ!!」 だがタイラントは五人分の光線を、ベムスターの腹で吸い込んでしまい、ダメージを 受けなかった。これにはウルトラ兄弟も動揺を覚える。 『フハハハハ! このジュダ様の力、思い知ったか! 貴様らウルトラ戦士を、地球ごと 粉砕してくれるわぁッ!』 勝ち誇って豪語するジュダ。偉大なウルトラ兄弟の力が加わっても、EXタイラントを倒す ことは出来ないのか? だがその時、この戦場に彼方から赤い火が迫り来る! それを見上げたゼロが歓喜に震えた。 『来た! 遂に来たか! タロウッ!』 その言葉の通り、赤い球の中から現れたのはウルトラマンタロウだ! 彼はゼロや兄弟たちに 一番に告げる。 「お待たせしました! 特訓を終え、ジュダを倒せる力を習得してきました!」 『よくやったぜ! そんじゃあ……!』 タロウが駆けつけたことで気合いを入れ直したゼロが、EXタイラントに振り返る。 『俺も師匠としてひと踏ん張りしねぇとな! はぁぁぁぁぁッ!』 気勢とともに空高くに跳躍し、全力のウルトラゼロキックを繰り出す! 流星のような 飛び蹴りがタイラントの脳天に命中した。 「キイイイイィィィィッ!!」 さすがのタイラントも、頭蓋に強い衝撃をもらったことで動きが弱った。 『よし、今だ!』 「はい! 兄さんたち、お願いしますッ!」 この間にタロウは、兄たちのエネルギーをウルトラホーンに集めた! 五人のウルトラ戦士の 身体が消え、タロウと一つに合体する。 「むんッ!」 タロウは、兄たちのエネルギーを全てウルトラホーンに吸収し、スーパーウルトラマンとして 立ち上がったのだ! 『タイラントよ、タロウを倒せぇッ!』 「キイイイイィィィィッ!!」 ジュダはEXタイラントをタロウにけしかける。しかしウルトラ六兄弟の力を一つにした タロウは計り知れないパワーを全身にみなぎらせて、それを迎え撃つ。 「たぁぁッ!」 タロウのジャンピングキックがタイラントに炸裂。すると体格ではるかに上回っているはずの タイラントが押し返されたのだ! 『すげぇ!』 ゼロたちはその光景に驚愕した。六兄弟の力が合わさると、純粋なパワーでもあれほどの 大怪獣を凌駕するほどになるのか。 「キイイイイィィィィッ!!」 タイラントは鉄球を飛ばして反撃してくるが、タロウは手の平で鉄球を打ち払った。そして 両腕をT字に組み、ストリウム光線を発射。 「とあぁーッ!」 タイラントの顔面に直撃したストリウム光線は、炸裂を引き起こしてタイラントに大ダメージを 与えた。 タロウは圧倒的なパワーでタイラントを追い詰めていく。だがジュダがそれに黙っていなかった。 『このままでは済まさんぞぉ! 最後の手段だッ! タイラントよ!!』 「キイイイイィィィィッ!!」 命令を受けたタイラントが鉄球を飛ばす。だが矛先はタロウでもゼロでもなく、はるか天空だ。 「何をする気だ!?」 伸びていく鎖は途中で止まり、引き戻される動きとなる。そうして雲の向こうから戻ってくる 鉄球は……何と巨大な隕石に突き刺さって、地表に向けて引きずり落としていた! 「!! あれを地球に落とすつもりかッ!」 『地球もろとも、宇宙の藻屑となれぇぇぇぇッ!』 巨大隕石が地球に落下したら、どれだけの犠牲者が出るか分かったものではない。とんでもない ジュダのあがきだ。 しかしゼロはそれをみすみす許したりはしなかった。ゼロスラッガーを胸部に接続しながら タロウに呼びかける。 『タロウ、隕石は俺が破壊する! お前はタイラントとジュダを倒すんだ!』 「はいッ!」 ゼロは上空から落下してくる隕石に向かって、ゼロツインシュートを発射! 『でぇあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッ!』 気合い一閃、超絶破壊光線が鉄球ごと隕石を粉砕し、地上に影響が出ることはなかった。 そしてタロウは右腕の先から脇腹に掛けての広い範囲から、M78星雲史上最強の必殺光線を、 満を持して放った! 「コスモミラクル光線!!」 光線はEXタイラントに叩き込まれ――一瞬にして爆発四散せしめた! 『ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!』 暗黒宇宙で、タイラントの撃破と同時に己の闇のエネルギーも強い光のエネルギーでかき消された ジュダが、断末魔を発しながら消滅したのだった。 EXタイラントとジュダに勝利したタロウが合体を解き、ウルトラ兄弟がタロウの前に現れる。 「兄さんたち、ありがとう!」 ウルトラ兄弟はおもむろにうなずき、タロウの健闘を称えた。 次いでタロウは、ゼロに向き直って彼にも礼を告げる。 「ゼロさんも、今まで本当にありがとうございました。私たちの勝利は、あなたがいたからこそです」 『なぁに、どうってことないさ。ウルトラ戦士は助け合いだからな』 気さくに返したゼロが踵を返す。 『ここはもう大丈夫だ。俺は旅の続きに戻るぜ』 「もう行かれるのですか? せめて、ウルトラの星で改めてお礼を……」 『それには及ばねぇっての。俺は風来坊さ。一つの戦いが終われば、またどこかで俺の助けを 求めてる人がいるところにひとっ飛びするのが俺の生きる道なんだ』 ゼロは去り際に、タロウに首を向けてサムズアップした。 『じゃあなタロウ。平和になったお前たちの世界、ずっと見守ってるぜ』 本の外からな、とゼロは心の中でつけ加えた。 「はい! 私もゼロさんのご健闘を、ずっとお祈りしてます!」 『へへッ……そんじゃあ、達者でな!』 タロウたちウルトラ六兄弟に見送られながら、ゼロは地球を――この本の世界を後にしたのであった。 ――『ウルトラマン物語』も完結させた才人が、今回もまた無事に現実世界に帰ってきた。 「これで半分だ……。そろそろルイズに変化が起きてもいいんじゃないか?」 そんな才人の独白に応じるかのように、ルイズの方からかすかに声が聞こえた。 「ん……」 「ルイズ!?」 顔を向けると、それまでずっと眠り続けていたルイズがゆっくりと上体を起こしたのだった。 これに才人たち一同は驚き、安堵した。 「ルイズ、よかった……。やっと目を覚ましたんだな!」 「ミス・ヴァリエール……おはようございます。ご無事にお目覚めになられて、わたし安心しました……」 「ほんとよかったのねー! 一時はどうなることかと思ったのね」 「パムパム!」 才人たちは感激してルイズに呼びかけたが、ルイズはぼんやりと彼らの顔を見つめ返していた。 「ルイズ? 起き抜けで頭がはっきりしてないのか?」 訝しんだ才人が近寄ろうとするのを、タバサが制した。 「待って。様子が変」 タバサのひと言の直後に、ルイズは才人たちに対して、このように尋ねかけた。 「あなたたちは……誰ですか?」 「え……?」 それに才人たちは思わず固まってしまった。シエスタが戸惑いながら聞き返す。 「ど、どうしたんですかミス・ヴァリエール? 長く眠り過ぎて、ぼけちゃいましたか?」 「ミス・ヴァリエール……? それが、わたしの名前ですか……?」 「もう、何言ってるのね? こんな時に冗談はよすのね!」 シルフィードが大きな声を出すと、ルイズはビクッ! と身体を震わせて縮こまった。 「ご、ごめんなさい! わたし、何か悪いことしましたか……?」 「え、え……?」 普段のルイズからは想像もつかないほど怯え切った様子に、シルフィードも唖然とする。 タバサはルイズを脅かしたシルフィードをポカリと杖で叩いて、言った。 「ルイズは記憶を失ってる。……まだ戻ってない、と言った方がいいかもしれない」 「そ、そんな……」 呆然と立ち尽くす才人。一方でルイズは、周りのもの全てに怯えているかのように震えた。 「わたし、分からないんです……。自分の名前も……どんな人だったのかも……」 どうやら、『古き本』の攻略はまだ続けなければいけないようだ。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔